沖縄県 ヘリオス酒造 許田蒸溜所:見学訪問レポート(2026年1月)

ウィスキー蒸留所
ウィスキー蒸留所
ヘリオス酒造

許田蒸溜所。ラム、ビール、泡盛、ウイスキーを製造する、沖縄の総合酒類メーカーならではの挑戦的かつ実用的なウイスキー造りとは

沖縄県北部、名護市許田。
湖辺底(こへんぞこ)集落を通り抜けて開かれた場所から見える大きな熟成藏。を構える許田蒸溜所。


亜熱帯の強い日差しと、海から吹きつける湿った風に包まれたこの地で、独自の時間を刻む蒸溜所が稼働しています。
高温多湿というピークも早い熟成。容易ではない環境ながらも、原酒を育て上げる。
長年泡盛やラムなど多様な蒸溜酒を手がけてきたヘリオス酒造の技術的ノウハウが大きく反映されています。

蒸溜所内では、単に設備を稼働させるのではなく、「沖縄で酒類をつくる意味」を感じさせます。
製造方法から熟成時の温度変化の大きさ、エンジェルズシェアの高さ、そして樽熟成の進みの速さ。
すべてが沖縄の要素であり、個性として昇華されています。

許田蒸溜所は、その静かな佇まいと沖縄らしい南国の風土が見える蒸溜所。

その風土や新しいもの、古いものを否定せず、工夫を行う。その姿勢を体現する蒸溜所と言えるでしょう。

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ラム酒製造から始まった歴史ある企業

沖縄の重要かつ豊富な資源であるサトウキビ。
戦後、アメリカ統治下にあった沖縄では、伝統的な泡盛よりも、世界的に親しまれているラム酒の方が外国人に受け入れられやすく、観光客向けの珍しい土産としても人気を博しました。

ヘリオス酒造の酒造りは、こうした背景の中でラム酒製造から本格的に歩みを進めていきます。
沖縄の風土と原料を活かしながら、時代や市場の動きに応じて酒の幅を広げてきた歴史は、現在の総合酒類メーカーとしての姿へとつながっています。

ウイスキー造りへの挑戦 1963年から続く系譜

ヘリオス酒造がウイスキー造りに着手したのは、1963年のこと。
当時としては非常に先進的な試みであり、「沖縄から世界に通じる酒を造る」。明確なビジョンがありました。

この時期、社名は「太陽醸造」から、ギリシャ神話に登場する太陽神の名を冠した「Helios(ヘリオス)」へと変更されます。
南国・沖縄の太陽の恵みを受け、人々を明るく照らす存在でありたい。
その想いが込められた社名は、まさに「太陽とともに歩む酒造り」という企業の原点を象徴しています。

現在、許田蒸溜所で使用されているスチルやタンク、糖化設備の一部は、泡盛やビール製造で使われてきたものを転用したものです。
そこには、総合酒類メーカーならではの合理性と、現場での創意工夫が息づいています。

原料・設備管理

ウイスキーの原料には、ノンピート麦芽とへビリーピーテッド麦芽の両方を使用。
麦芽はスコットランド産に限らず、ニュージーランドやオーストラリア産のものも取り入れています。

インパクトのあるスモーキーさを前面に押し出したピーテッドタイプから、余韻が長く続くノンピートタイプまで、表現の幅は広く、沖縄の熟成環境を前提とした酒質設計がなされています。

仕込みは1バッチあたり1トン。

ラム製造用の黒糖もありました

糖化・発酵

糖化および発酵工程は、クラフトビール製造を行う棟で実施されています。
ウイスキーとビールは、麦芽や酵母などの原料こそ別物を使用していますが、工程の途中までは非常に近く、同一設備での仕込みが可能です。

ビール造りで培われた温度管理や発酵コントロールの知見は、ウイスキーの醪造りにも活かされており、総合酒類メーカーならではの技術的な強みがここに表れており、ウイスキーの醪も発酵期間5日ほどと、しっかり乳酸発酵まで行われています。

糖化漕や発酵槽は、国内メーカーのものを使用し、後述のポットスチルも国内製造のものだそう。

蒸溜工程

蒸溜には、形状とサイズがまったく同一の銅製スチルが3基使用されています。
このポットスチルはウイスキーだけでなく、元々は泡盛の蒸溜にも使用されていました。

スチル形状はかなり独特

ラインアームは水平式

全てサイズもヘッドやラインアームの形状も同一という珍しい組み合わせ。
銅製スチルで泡盛を蒸溜している蒸溜所は国内でも許田蒸溜所のみ。
もともと泡盛の樽熟成を視野に入れていた背景があり、長期熟成を前提とする場合、伝統的な甕よりも樽の方が貯蔵に適していること、そして銅製スチルによってオフフレーバーを除去したクリーンな原酒が、樽熟成に向いているという知見があったそうです。

この実験的な判断の積み重ねが、現在の許田蒸溜所のウイスキー造りを支えています。

ウイスキーを仕込む際には、奥二つスチルでの初留を行い、手前の再留器にて初留2回分を再留するような形がとられています。

南国・沖縄という特殊な環境を温度管理や近代的な設備で内地と同じような原酒を作り上げるのではなく、土地の伝統的な風土をよく理解し、受け入れ、酒質に反映させる。
許田蒸溜所のウイスキーは、その土地と真正面から向き合った結果として生まれているのです。

高さ7mの保管タンクは泡盛用で使用していたもの

余談となりますが、初溜液には、ウイスキーや焼酎、泡盛のどちらにも、いわゆる「フーゼル油」と呼ばれる油分が含まれています。

これはアルコール由来の成分で、泡盛の場合は旨味や厚みとして好まれるもの

多くの蒸溜所ではヘッド、ハート、テールと初溜を3段階分けて取り出します。

ヘッドには先ほどの油分など、雑味と呼ばれるものも多く残っており、通常は取り除かれます。
しかし許田蒸溜所は、綺麗な酒質を求めるだけでなく、泡盛の知見があるからこそ、油分もしっかり取り込んで初溜液を完成させます。

ただし、この初溜液を長く置いておくと、油分が空気に触れて酸化し、香りに重さやクセが出てしまうことがあります。
そこで許田蒸溜所では、そうした油臭がつく前に、すぐ再留へと移ります。

初溜液には油が多く残る

泡盛とウイスキー、両方の酒造りを長年手がけてきたからこそ培われた技術的な判断力であり、沖縄ならではの風味の一つとも言えます。

熟成工程

許田蒸溜所の熟成庫は敷地内には二つあり、今回はラック式でおかれている二の蔵を見学。

草に覆われている一の蔵

二の蔵には、現在およそ2,000樽の原酒が貯蔵されています。
石壁造りの外観にコンクリートの床と壁に覆われた熟成庫は、沖縄といえど、液体が多い建物の為、夏でも少しヒンヤリしているといいます。

そこでは泡盛、ウイスキー、ラムが隔てなく、同じ空間の中で熟成の時を重ねています。

並ぶ樽も実に多彩。

アメリカンホワイトオークやバーボンバレル、シェリー樽といった定番に加え、コニャック樽、さらには「泡盛百年古酒計画」のために用意された、ひときわ存在感のあるリムーザンオークの大樽など、他ではなかなか目にすることのない樽も含まれていました。

複数の酒を手がけるヘリオス酒造ならではの光景であり、この蔵そのものが、許田蒸溜所の要素が詰まっていると感じられます。

 

2000年から始まった百年泡盛古酒計画用の特注リムーザンオーク 2100年まで熟成が行われる。

ショップ情報

併設されたショップは物販が非常に充実。

ヘリオス酒造の歩みを紹介する展示や、蒸溜所設備のミニチュア模型なども設えられており、蒸溜所見学をしなくても、試飲を交えながら十分に楽しめる空間です。

店内では、蒸溜所限定のウイスキーや泡盛、長期熟成されたヘリオスのラムなどを購入・試飲することができます。

さらに、沖縄ならではのハブ酒や海蛇酒といった珍しい酒も並び、訪れるだけでこの土地の酒文化の幅広さを体感できるでしょう。

まとめ

沖縄という日本でも有数のリゾートでありながら、文化、風土も特別な土地。

高温多湿、激しい温度変化、早く進む熟成。
国内では知見の少ない、本来であればその造りは難しいといわれる要素を、酒の個性へと転換する判断と工夫が、工程の随所に見て取れました。

新しいことも取り入れ、古いものも大切に使用する。そんな柔軟な姿勢が「ここでしか生まれない酒」を追求する。その姿勢こそが、『許田蒸溜所』ならではの個性を生み出しています。

この記事を書いた人
大石 竜平

北海道出身 bar新海虎ノ門店のバーテンダー。
都内のレストランで従事し、日本ソムリエ協会認定ソムリエ資格を取得。
土地それぞれの風土から様々な味わいが作り出される日本のウイスキーに興味を持ち、bar新海に就職。蒸留所へ行き、造り手の方々に話を聞き、その情熱・情報をバーテンダーとして伝搬するべく、JWDに参加。

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