数々の伝説、偉業を成し遂げてきたジャパニーズクラフトディスティラリーのパイオニア。
1.概要
ウイスキー冬の時代に立ち上げ、現在クラフトウイスキーの先駆者とも称され、今や国内外問わずその人気は高く、不動の地位を得ている蒸留所です。
代表の肥土伊知郎氏の家は、秩父で1625年の江戸時代から続く造り酒屋の「東亜酒造」
1941年に肥土氏の祖父である肥土伊惣二氏が羽生市で蒸留所を設立、80年には当時珍しかったポットスチルを導入し、伝統的な手法でモルトウイスキーを作っていました。
肥土伊知郎氏はサントリーで営業職に従事したのち、東亜酒造に入社。
羽生蒸溜所にてウイスキー造りに携わるも、経営悪化により生産停止に追い込まれ、日の出通商に事業譲渡し、同蒸留所も売却されることになります。
その時、羽生蒸溜所の原酒も廃棄される方針でしたが、廃棄を防ぐため肥土氏自ら起業し、ベンチャーウイスキーを設立。
樽を引き取った後、「笹の川酒造」の手厚い協力の元、売り出せたのが『イチローズモルト』です。
そのイチローズモルトの中でも、羽生蒸留所の原酒を使用したトランプの絵柄が描かれた『カードシリーズ』は、カルト的な人気を誇り、後に58本全て揃ったフルセットがオークションで1億円で落札され、大きな話題となりました。
2007年2月埼玉県秩父市にて、秩父蒸溜所稼働を開始。
ウイスキー低迷期に、新しく日本国内に蒸留所が開設されるのは実に35年ぶりでした。
2019年秋から第2蒸留所が稼働を開始。
2024年肥土伊知郎氏は英国の権威ある専門誌「ウイスキーマガジン」が認定する個人に与えられるものの中でも、最高位に位置する「Hall of Fame」を日本人最年少受賞し、殿堂入りへ。
名実ともにクラフトディスティラリーの先駆者として、その地位をゆるぎないものとしながらさらに、100年後を夢見据えるベンチャーという名に真に相応しいと言える蒸留所です。
2.基本情報
2-1.オーナー
ベンチャーウイスキー
2-2.所在地
〒368-0067
埼玉県秩父市みどりが丘49
2-3.アクセス
【電車】
秩父鉄道 皆野駅からタクシーで約15分
西武線 西武秩父駅からタクシーで約20分
【車】
関越自動車道花園インターより秩父方面
皆野寄居有料道路を直進。
料金所を通過して2個目の出口で下り交差点大塚を直進し、次の交差点を右折。
みどりが丘工業団地方面案内看板を確認して進む。
※一般の見学は受け付けていません
2-4.操業開始
2008年(平成20年)
2‐5.主力商品
通称ホワイトラベルと呼ばれる秩父蒸溜所のスタンダード商品。
現在、比較的手に入れやすく味も飲みやすいので初心者にもおすすめです。
ソーダ割りで飲むのがおすすめですが、肥土伊知郎氏本人はお湯割りでも飲むのだそう。
現在のところ、ありません
3.見学・ビジターセンター
一般の見学受け入れは受け付けておりません。
事業者向けのみとなります。
3‐1.周辺グルメ情報
秩父駅に併設された温泉施設やおいしい料理。
イチローズモルトを使ったアイスクリーム等、見学は出来ずともイベントも多く行く価値は十二分にあります。
さらには秩父蒸溜所のアンバサダーである吉川由美氏が共同経営されている『ハイランダーイン秩父』はマストで足を運んで頂きたい場所。
3‐2.観光宿泊
4.製造スペック
秩父蒸溜所の仕込みはワンバッチ麦芽400kgと極小規模で、年間生産量はグレンリベットの2日分にあたります。
マッシュタンとポットスチルはフォーサイス社製でガス直火蒸留機を使用。
輸入麦芽に加えて、地元埼玉県産の二条大麦「彩の星」等を使い、フロアモルティングも取り入れるなど、スコッチの製法を下敷きにジャパニーズの個性を活かしたウイスキー造りを行っているのが特徴です。
2019年秋から第2蒸留所が稼働を開始。
生産量は第1蒸留所の5倍になり、一度に仕込む麦芽は2t。
ポットスチルは5倍の量を蒸留できるよう、形は同じストレート型ですが第一蒸溜所のものよりも巨大なポットスチルになっています。
生産量 | 5万2000リットル(LPA) |
仕込み水 | 大血川から取水する市水(軟水) |
原料 | ドイツ及びイングランド産、スコットランド産、埼玉県産 |
仕込み量 | 400㎏(年間約300回の仕込み) |
モルトミル | アランドラック社製ローラーミル |
糖化槽 | フォーサイス社製撹拌装置なしの特注糖化槽1基(2400リットル) |
麦汁量 | 2000リットル |
発酵槽 | 日本木槽木管製ミズナラ8基(約3200リットル) 発酵約80~100時間 |
ポットスチル | 初留 フォーサイス社製ストレート型1基(2000リットル) 再留 フォーサイス社製ストレート型1基(2000リットル) |
その他 |
マルエス洋樽の機材を譲り受けた製樽工場(クーパレッジ)有 フロアモルティング有(10~15トン) |
冷却装置 | シェル&チューブ |
ボトリング設備 | 有り |
熟成庫 | 第1~4貯蔵庫 ダンネージ式6棟ラック式1棟 1500樽×4 第5~6貯蔵庫3000樽 第7貯蔵庫1万8000樽 合計3万樽貯蔵可能 |
5.熟成環境について
蒸溜所の周辺は自然に囲まれており、夏は高温多湿、冬には朝晩が氷点下に至るほどの寒さを誇ります。
そのダイナミックな寒暖差がウイスキーの熟成に多大な影響を与え、短い熟成期間にも関わらずフルーティでバランスの取れたウイスキーに仕上がります。
べンチャーウイスキー創業当初、羽生蒸留所には20年近く貯蔵された原酒のストックが400樽あったと肥土氏は語っています。
6.蒸留所ストーリー
6-1.歴史
始まりはかつて、北のチェリー(笹の川酒造)東の東亜(東亜酒造)西のマルス(本坊酒造)と言われた三大ウイスキーメーカーのうち、東亜酒造が持つ羽生蒸留所の閉鎖。
買収した企業は羽生原酒の廃棄を決定、肥土伊知郎氏は原酒を守る為一念発起し、2004年にベンチャーウイスキー設立。
蒸留所を建てるまでの間、羽生原酒を一旦預かってほしいと様々な企業に交渉。
しかし、当時ウイスキー冬の時代で全盛期の5分の1までの消費量に落ち込み、預かってくれる企業は居ませんでした。
ところが、福島県郡山市の「笹の川酒造」は事情を説明すると「それはいちメーカーだけでなくて業界の損失であり、更に言えば長い時間をかけて熟成させたものを廃棄してしまうのは「時間の損失」だ。」と語り、保管場所を貸与してくれました。
そうして、貴重な原酒は廃棄を免れたのです。
2005年最初のイチローズモルトを600本ボトリング、15,000円で販売開始。
バーテンダーに口コミを広げてもらう為、毎日3軒以上のBARをはしごし、2年間でのべ2000軒に上るBARでの売り込み。
2年間、手売りで600本を売り切ります。
翌年2006年、英国誌ウイスキーマガジン主催の「プレミアムジャパニーズウイスキー特集」にて最高賞を起業から、わずか2年余りで受賞。
トランプの絵柄を施したウイスキー「カードシリーズ」と肥土伊知郎氏の名は、これを境に一気に知名度を上げます。
2008年、念願の蒸留所を開設。
2019年には完全自社製品として初のエイジ表記された「秩父 ザ・ファーストテン」をリリース。
国内外での高い評価を受ける。
2022年11月、完全子会社「株式会社ベンチャーグレイン」設立。
北海道苫小牧市にグレーンウイスキー製造用の蒸留所「苫小牧蒸溜所」2025年春に本稼働を予定しています。
2004年 (平成16年) |
埼玉県秩父市にベンチャーウイスキー設立。羽生蒸留所の原酒を笹の川酒造に移設。 |
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2005年 (平成17年) |
「イチローズモルト羽生1988」「カードシリーズ(第1弾)」発売。 |
2006年 (平成18年) |
「イチローズモルト・カード・キング・オブダイヤモンズ」が 英国ウイスキーマガジン誌のジャパニーズ特集で最高得点ゴールドアワードを受賞。 |
2008年 (平成20年) |
秩父蒸溜所を開設。イングランドでのモルティング研修を行う。 |
2009年 (平成21年) |
「ニューボーン」シリーズ、「シングルグレーン川崎」「ギンコー」発売。 |
2010年 (平成22年) |
「MWR」「ワインウッドリザーブ」「ダブルディスティラリーズ」「ザ・ファイナルヴィンテージ・オブ・ハニュウ10年」発売。 |
2011年 (平成23年) |
「秩父ザ・ファースト」「モルト&グレーン」発売。地元農家と大麦栽培を開始。試験的に自家製麦を開始。樽熟成庫を新設。 |
2012年 (平成24年) |
「ザ・ピーテッド」「ザ・フロアーモルテッド」発売。 |
2013年 (平成25年) |
クーパレッジ(樽工場)を設置。 「秩父オンザウェイ」「秩父ちびダル」発売。 秩父蒸溜所がSMWSのモルトウイスキー蒸留所130番として初ボトリング、翌年発売される。 |
2014年 (平成26年) |
カードシリーズのジョーカー2種が発売、54種(全58本)の完成となる。 地元大麦「ゴールデンメロン埼1号」を有機栽培により復活させる取り組みを始める。 |
2015年 (平成27年) |
香港のオークションでカードシリーズ54本が380万香港ドル(約5900万円)で落札される。 「イチローズモルト清里フィールドバレエ26周年」(第2弾ボトル)発売。 本格的な自家製麦を開始。 |
2018年 (平成30年) |
秩父山地のミズナラ群生林で伐採したミズナラ材で樽造りを開始。 |
2019年 (令和元年) |
秩父第2蒸溜所を開設、生産能力は約5倍となる。 |
2020年 (令和2年) |
「秩父・ザ・ファーストテン」「イチローズモルト&グレーン505」発売。 |
2021年 (令和3年) |
「イチローズモルト&グレーン ジャパニーズブレンデッドウイスキー リミテッドエディション2021」「イチローズモルト ダブルディスティラリーズ 秩父×駒ヶ岳2021」「イチローズモルト&グレーン クラシカルエディション」発売。 ラック式の第7熟成庫を完成。 イチローズモルト・カードシリーズ全58本が国内オークションにおいて1億円で落札される。 ベンチャーグレイン株式会社設立。 |
2022年 (令和4年) |
埼玉県浦和競馬組合との“馬いもの”コラボ企画「イチローズモルト&グレーン2022 浦和競馬オリジナル」「イチローズモルト&グレーン ブレンデッドジャパニーズウイスキー2022」「イチローズモルト秩父ザ・ピーテッド2022」発売。 |
2023年 (令和5年) |
ベンチャーウイスキー、北海道苫小牧東部地域(苫東)に新たなグレーンウイスキー蒸留所の建設計画が報道される。 国内メーカー5社が協力した「ウイスキー100年プロジェクト-Fellow Distillers-」ブレンデッドウイスキーを発表。 「イチローズモルト秩父 シングルカスク ミズナラヘッズホグスヘッド」 「イチローズモルト秩父 レッドワインカスク2023」発売。 |
6-2.歴代のブレンダー
マスターブレンダー 肥土伊知郎
株式会社ベンチャーウイスキー代表取締役社長。
1965年、埼玉県秩父市生まれ。
実家は江戸時代創業の蔵元、肥土本家。
東京農大醸造学科卒業後、サントリー勤務を経て、父が経営する家業の造り酒屋に入社。
しかし、会社が2004年に他社に経営譲渡されたため、廃棄予定のウイスキー原酒を買い受け、ベンチャーウイスキー社を設立。
2008年2月、秩父蒸溜所が完成。
2012年2月、自社で蒸溜した最初のモルトウイスキー「秩父 ザ・ファースト」は米国専門誌『Whisky Advocate』が主催する「Whisky Advocate’s 18th Annual Awards」にて『ジャパニーズウイスキー・オブ・ザ・イヤー』を受賞しました。
英国誌「ウイスキーマガジン」が認定する個人に与えられる称号の中でも、最高位に位置する『Hall of Fame』を受賞、殿堂入りを果たしました。
座右の銘は『時は命なり』
アンバサダー 吉川由美
1981 年、栃木県生まれ。
帝国ホテルにてバーテンダーとして勤務した後、2008 年にNYそして2011 年にスコットランドへ渡ります。
スペイサイドのウイスキーBar「ハイランダーイン」でバーテンダーとして従事し、その間アイラ島の
ブルイックラディ蒸溜所にてウイスキー造りに携わる。
日本帰国後、ベンチャーウイスキーにてブランドアンバサダーとして蒸留所の案内やイベント、ウイスキーのセミナーや講座などのブースに立つ等、イチローズモルトの広報活動を積極的に行っています。
2019 年、ウイスキーマガジン社主催の『アイコンズ・オブ・ウイスキー』にて、『ワールドウイスキー・ブランド・アンバザダー・オブ・ザ・イヤー』を受賞。