「桜尾」と聞くと、この数年でウイスキーメーカーの印象が定着してきましたが、バーテンダーのやジンの愛飲家の方々にとっては、「桜尾ジン」の印象の方が強いのではないでしょうか?
2017年にウイスキー蒸溜所を操業し、ウイスキーとして出荷ができるまでの3年間は、ニューメイクやニューボーンなどのリリースは一切行わず、製造と熟成に専念されていたそうです。
イギリスのジン「シップスミス」からヒントを得て、当時の日本ではまだ珍しかった「クラフトジン」の製造に取り組み、導入した蒸溜機を活用して製造・販売・プロモーションを精力的に行っていたといいます。
現在、本格的な海外展開も見据え、2021年に「サクラオブルワリーアンドディスティラリー(旧中国醸造)」へ社名変更し、事業を拡大を続けている桜尾蒸溜所。私達は、2023年3月19日に蒸溜所を訪問し、シングルモルト桜尾、シングルモルト戸河内、そして桜尾ジンオリジナルなどの製造現場を実際に見て、造り方やこだわり、香味の狙いなど、最新の桜尾の製造現場を体験してきましたのでレポートしたいと思います。
Contents
1.東京から桜尾蒸溜所への道のり
桜尾蒸溜所は、広島駅から更に電車で30分ほどの「廿日市駅」が最寄り駅です。
名称 |
株式会社サクラオブルワリーアンドディスティラリー 桜尾蒸溜所 |
所在地 | 〒738-8602広島県廿日市市桜尾一丁目12番1号 |
私達一行は、東京から出発し、
①東海道新幹線で広島駅まで約4時間
↓
②JR山陽本線に乗り換えて岩国方面に約30分
↓
③廿日市駅に到着してから徒歩約15分で、桜尾蒸溜所へ到着
2.ウイスキー造りの歴史
桜尾蒸溜所は、2017年に操業開始しましたが、実はサクラオB&D(旧中国醸造)としてのウイスキー造りの歴史は1920年に遡ります。
2-1.1920年にウイスキー製造免許取得
サクラオB&Dは、日本初のウイスキー蒸溜所である山崎蒸溜所の操業以前の、1920年にウイスキー製造免許を取得しています。(江井ヶ嶋酒造に次いで2番目)
当時のウイスキー製造に関する資料は残っておらず、どのようなウイスキー造りをしていたかの正確な記録は無いとの事でしたが、1958年にはウイスキー製造設備を強化して本格的にウイスキー製造を始めました。当時販売していたのが「グローリーウイスキー」や「ハートウイスキー」という銘柄になります。
この頃のウイスキー製造に使用されていたであろう初期のポットスチルが、桜尾蒸溜所の敷地内を歩いていると目にする事ができます。当時、ウイスキー製造に関する情報も少なかったにもかかわらず、このようなポットスチルを開発してウイスキーを製造していた事実を目の当たりにすると、改めて先人の方々の偉大さと、感謝の気持ちがこみ上げてきます。
2-2.2006年、戸河内ウイスキー発売
その後、長い時を経て2006年、過去に製造・貯蔵されたままのウイスキーが見つかり、海外輸入原酒とブレンドしたブレンデッドウイスキーとして「戸河内ウイスキー」を発売。
過去に製造したウイスキー原酒はいずれ底をつく為、自社でウイスキー製造を行う事を決め2017年桜尾蒸溜所を操業。現在のブレンデッドウイスキー戸河内はいずれ自社製モルトと自社製グレーンによる製造にシフトする予定のようです。
2-3.海外研修と桜尾ジン
ウイスキー製造の開始にあたって、国内での研修が難しかったようで、スコットランドやアメリカなどの複数の蒸溜所を訪問し、実際にウイスキー造りの現場を見てどのような製造設備を導入するかなどの構想を練り進めていたったそうです。
当時イギリスの空港で売られていたジン「シップスミス」を見て、今後の日本のクラフトジンブームを予見し、ウイスキー製造に加え、桜尾ジンの製造・発売を決められたそうです。
2017年にいよいよ桜尾蒸溜所が操業開始となりましたが、ウイスキーを製造しているという情報は、ウェブサイト上でも見かける事は無く、PRの殆どは桜尾ジンだけでした。
その時の状況を聞くと、初年度からウイスキーもかなりの量を製造していたようですが、販売している商品が桜尾ジンだった為、最初のPRは桜尾ジンのみに集中していようです。
2-4.サクラオB&Dに社名変更
2021年3月、社名を中国醸造からサクラオブルワリーアンドディスティラリーに変更。そして2021年7月1日に、桜尾蒸溜所のウイスキーのファーストリリース、「シングルモルト桜尾(カスクストレングス)」「シングルモルト戸河内(カスクストレングス)」を発売。
現在は、ウイスキー、スピリッツ、リキュールを含む洋酒が売上の約7割を占めるようになっています。それまでは、「みりん」、「焼酎」、「合成酒」などが主な売上だったが価格競争の為業績は悪く会社存続も危ぶまれていた時もあったとの事。
様々な苦難を乗り越えてきたサクラオB&Dは、洋酒、そしてウイスキー事業に可能性を見出し、更に海外への輸出拡大などを見据えています。
3.製造現場と設備
桜尾蒸溜所の構成は、「SAKURAO No.1」「SAKURAO No.2」「SAKURAO WAREHOUSE」「戸河内トンネル」の大きく4つに分けられます。
3-1.SAKURAO No.1(モルトウイスキー・ジン)
「SAKURAO No.1」では、モルトウイスキーの製造と、ジンの製造を行っています。
1回の仕込に使用する麦芽は1トン。粉砕するミルはスイスのビューラ社製を使用。麦芽はスコットランドやオーストラリアなどから輸入。
麦芽の粉砕の割合は、2(ハスク):6.5(グリッツ):1.5(フラワー)の比率を採用。
糖化に使用するマッシュタンとステンレスの発酵タンクはハンガリーのバーバリアン社製を使用。マッシュタンに水と酵母を加えて糖化し、ステンレスの醗酵槽に移して約3日間発酵。
蒸溜機はドイツのホルスタイン社製のハイブリッドスチルを使用。桜尾ジンもこのホルスタイン社製のハイブリッドスチルを使用しています。桜尾では、今後ジンやウイスキーのブームが去り売上や生産量が落ち込む事も想定し、他の製品の生産へ切替可能な設備としてハイブリットスチルを採用している。