「静岡プライベートカスク」700mlボトルが存続決定も、大幅値上げへ

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ガイアフロー静岡蒸溜所

廃止予定だった「静岡プライベートカスク」の700mlボトルでのボトリングが正式に存続が決定したが、ボトリング費用は大幅値上げへ。

先般より、SNSやネット上で話題となっていた「静岡プライベートカスク問題」がいよいよ終結か。静岡蒸溜所を運営するガイアフロー株式会社 代表取締役 中村大航氏は、2023年9月1日にウェブサイト上及びメール配信にて『「静岡プライベートカスク」に関する一部の誤情報について、およびサービス内容一部変更のお知らせ』を発表し、この中で問題となっていた「静岡プライベートカスク」の700mlボトルリング廃止を止め、今後も存続する事を正式に発表。

当サイトでは、これまで「静岡プライベートカスク問題」に触れてきませんでしたが、本記事では今年4月のボトリング費用の改定のお知らせに遡り、一連の内容と最新の状況を解説していきたいと思います。

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1.「静岡プライベートカスク」とは?

まず、この問題に触れる前に「静岡プライベートカスク」とは何なのかを説明します。

「プライベートカスク」とは、ボトリング前の樽に入った状態のウイスキー(または熟成期間3未満のスピリッツ)を樽のまま購入し、所定の熟成期間を経過した後に、ボトリングを行い購入者へ届けらるものです。

プライベートカスクの購入価格や、熟成期間は、メーカー(蒸溜所)の規約や樽のサイズ等で様々です。
購入者は、そのメーカー(蒸溜所)のファンで応援の気持ちで購入する方もいれば、投資目的として成長性の高いメーカー(蒸溜所)を見極めて購入する方もいます。

日本の蒸溜所では、非公開でプライベートカスクを販売するケースが多いのですが、静岡蒸溜所は操業開始から間もなく一般公開として、プライベートカスクを販売してきました。

静岡プライベートカスクの詳細については、下記のメーカーページをご参照ください。

プライベ...

2.ボトリング費用改定のお知らせ(2023/4/3)

では、今回の「静岡プライベートカスク問題」について、時系列で説明していきます。

2023年4月3日、静岡蒸溜所よりカスクオーナー宛に『ボトリング費用改定のお知らせ』がメールで届きました。
ボトリングに必要なビン、キャップ、キャップシール、ラベル、チューブに関して、資材の高騰により価格の維持が困難となったとの事で、下記のように改定するという内容です。

【価格変更の内容】
費用名:ボトリング費用
料金:450円(税抜)→550円(税抜)
変更日:5月1日申し込み分より

1本当たり100円の値上げが妥当なのか、どうなのかは分かりかねますが、様々な国際情勢による物価高騰によりボトリング単価の維持が困難である事については理解できます。
この時点で、異を唱えるカスクオーナーは殆どいなかっただろうと思います。

3.700mlボトル廃止のお知らせ(2023/6/26)

ボトリング費用改定のお知らせから約3カ月後、更に重要なお知らせが届きました。

2023年6月26日、静岡蒸溜所よりカスクオーナー宛にメールが届きます。

メールの内容を要約すると、概ね下記の内容が記載されていました。

  • 静岡蒸溜所は700mlボトルを全廃し、500mlボトルに切り替える事を決断した。
  • 熟成年数の長いウイスキーを世に送り出す」方針を維持したまま、販売本数を増やすという相反する課題を解決するための検討結果である事。
  • 小さい樽は、一般的にエンジェルズシェアが大きく、液漏れの事故が起きる確率も高いため、これまでお手元に届けられる本数が期待より少ないという現実があった。
  • 特注品である500mlボトルの仕入価格は、汎用品の700mlボトルの仕入価格より大幅に高い。
  • 700mlボトルの商品は、今夏出荷のブレンデッドMでひとまず最後。以降、少なくとも今後の数年間は、全商品を500mlボトルで出荷する計画。
  • 700mlボトルの併存は、パッケージを含めて考えるとコストがさらにはね上がってしまうため、断念せざるえないのが実情。
  • 700mlボトルのご希望も多い為、将来的には700mlボトルの復活も検討課題。
  • プライベートカスクのオーナーは、今回のお詫びの気持ちを込めて、7月発売予定の500mlボトル初のシングルモルトを優先販売する。

突然届いたこちらのメールの内容は既に決定事項として、カスクオーナーに伝えられました。

ボトルの容量に関しては、プライベートカスク購入時の規約で定められていたものと思います。今回の変更が法的にどのように解釈されるのかはわかりませんが、メーカー側の都合による一方的な変更と言わざるを得ません。

並行して、ガイアフローのウェブサイトでは、『静岡蒸溜所のボトルが500mlに変わります』という記事がアップされました。

静岡蒸溜所のボトルが500mlに変わります【2023年7月13日...
【2023年7月13日 更新】 静岡蒸溜所のボトルの容量が500mlに変更となります。 静岡蒸溜所は今夏から、 - 【2023年7月13日 更新】 静岡蒸溜所のボトルの容量が500mlに変更となります。 静岡蒸溜所は今夏から、

3-1. なぜ選択制にしなかったのか?

静岡蒸溜所が主張する「一本でも多くお届けする為に~」500mlボトルに変更するという理屈は理解できるのですが、これをプライベートカスクにも適用しなくて良いのではないか?と感じました。

更に、500mlボトルは特注品であり700mlより仕入れコストが増加するという説明もありましたが、そのコスト増はボトリング費用を支払うカスクオーナーに転嫁されるわけでありますから、本来は700mlと500mlの選択式にすべきであったのではないかと思ってしまいます。

一応、併存も検討されたようですが、「700mlボトルの併存のご希望も承知しておりますが、パッケージを含めて考えるとコストがさらにはね上がってしまうため、断念せざるえないのが実情」と説明されています。

3-2. ボトリング費用負担の増加

500mlでボトリングすると、700mlボトリングと比較すると本数が増えます。本数が増えるという事はその分のボトリング費用が増額となります。これは、想定外の支出になってしまいます。

例えば、オクタブカスク(50L)の場合、静岡蒸溜所では、500mlで想定ボトリング数42本を想定しているようです。

樽詰めから3年後の樽中の原酒量は500ml×42本=21000ml(21L)となります。(オクタブのエンジェルズシェアが年間15%という事で樽中のウイスキーは半分以上揮発します。)

① 700mlでボトリングした場合の費用

700mlでボトリングした場合、樽中の原酒量が21000mlと仮定すると、21000ml÷700ml=30本となります。
1本当たりのボトリング費用が550円となりましたので、30本×550円=16,500円がボトリング費用となります。

② 500mlでボトリングした場合の費用

700mlでボトリングした場合、樽中の原酒量が21000mlと仮定すると、21000ml÷500ml=42本となります。
1本当たりのボトリング費用が550円となりましたので、42本×550円=23,100円がボトリング費用となります。

700mlボトルから500mlボトルに切り替わると、差額約6600円がカスクオーナーの追加負担となります。

3-3. オフィシャルとカスクオーナーの混同

静岡蒸溜所からのメールの説明を読むと、今後静岡蒸溜所のオフィシャル製品は500mlでボトリングする計画である事も記載されています。蒸留所の方針で、今後のオフィシャル商品のリリースを500mlボトルに変更する事は全く問題無い事だと思いますが、その変更を既に権利を購入済みの「プライベートカスク」オーナーのボトリングにまで適用するというのは、別に考えるべきではなかったのでしょうか。

オフィシャル商品の方針改変とプライベートカスクの方針改変を混同してしまった事が今回の問題点になるのではないかと思います。

3-4. カスクオーナーの反応

今回の改変について、SNSやネット、Youtube上では、様々な意見が飛び交っていた模様です。
その中で実際に「静岡プライベートカスク」のカスクオーナーでもありYoutubeチャンネル「もっさんハイボール倶楽部」を運営されているもっさんが、本件に関して問題提起をしていますので紹介致します。

いかがでしたでしょうか?

今回の改変の問題点や、今後に期待したい事、蒸溜所へのエールとも言えるメッセージを約20分に渡って丁寧に説明・解説して下さっています。非常にわかりやすい内容です。
問題提起を行いつつも、蒸溜所への配慮や愛情を感じる素晴らしいメッセージだと感じました。

4.誤情報及びサービス内容一部変更のお知らせ(2023/9/1)

そして、700mlボトル全廃のお知らせから約2カ月を経過して、2023年9月1日、また突然メールが届きました。

『「静岡プライベートカスク」に関する一部の誤情報及びサービス内容一部変更のお知らせ』というタイトルで、送られてきたメールには、要約すると下記のような内容が記されていました。

  • 「静岡プライベートカスク」に関し、SNS等において、誤った情報が流布されていることを確認した。
  • 無用のご心配をかけないよう正しい情報を、一般に開示する。
  • 従来より適宜、弁護士と協議し、法的な問題発生を防ぐ取り組みをしている。
  • 今後も、弁護士の指示のもとコンプライアンスを遵守し、適正かつ透明性のある企業経営に取り組む。

正しい情報の詳細については、下記のガイアフローウェブサイトに記載されています。

「静岡プライベートカスク」に関する一部の誤情報について、 および...
「静岡プライベートカスク」に関する一部の誤情報について、およびサービス内容一部変更のお知らせ - 「静岡プライベートカスク」に関する一部の誤情報について、およびサービス内容一部変更のお知らせ

このお知らせの中から重要な内容をピックアップして解説します。

4-1. ボトリング費用に関する説明

「×ボトリング費用を値上げすることで、利益を稼ごうとしている」という誤った情報に対して、「○ ボトリング費用は、資材代金+工賃の実費に相当する金額であり、値上げは各原価の上昇に伴うものです。」と説明。

4-2. ボトル容量に関する説明

「× 原酒の減りが多いのを、ボトルの容量を小さくすることで本数を増やして、誤魔化そうとしている」という誤った情報に対して、「○ カスクオーナーの方々から「ボトルの容量を小さくしてでも、ボトリング本数を増やしたい」というご要望を度々いただいておりました。」と説明。

4-3. 700mlボトルの存続とボトリング費用増大

SNSやネット上での様々な意見を受けての結論かどうかの説明も無く、700mlボトルの存続を正式決定するという記載がありました。

廃止予定だった700mlボトルでのボトリングを、正式に存続します。新たに設ける700mlボトルでのボトリング費用は、1本あたり770円とします。(500mlボトルでボトリングした場合と、容量当たりは同じ金額です)

700mlボトルの存続は嬉しいお知らせではあるものの、ボトリング費用が770円/本となりました。
これは、当初の金額と比較してかなりの増額となっています。

〇ボトリング費用の遷移

ボトル容量700mlボトル500mlボトル
~2023年4月末まで450円
~2023年6月末まで550円
2023年7月1日~550円
2023年10月1日~770円550円

今年の5月に、ボトリングの資材高騰により、700mlのボトリング費用の改定が行われ、450円→550円に変更になりました。
その後、ボトル容量が700ml→500mlに変更となりましたが、ボトリング費用は据え置きの550円。ボトルが特注である為、コストが増大していると説明。

そして今回、700mlボトルの存続を決定したが、そのボトリング費用は今年の6月末まで採用していた550円ではなく、なんと220円も値上がりして770円に。500mlと700mlを併存させるためには、こんなにもコストが増大するという事なのでしょうか。今回の発表では、このあたりの説明はありませんでした。

700mlボトルの存続が決定したものの、ボトリング費用の大幅な増額となってしまう為、これで今回の問題が終息するのか不安は残ります。

5.最後に

今回の「静岡プライベートカスク問題」について、ウイスキー蒸溜所運営上の厳しい実情が背景にあったのではないかと察してしまう為、静岡蒸溜所の主張も理解できます。
昨今の世界情勢の影響で、様々な材料が高騰しており、それがウイスキー製造に関しても全ての蒸溜所が問題として抱えているのも事実です。

しかしながら、プライベートカスク規約(仕様)の変えて良い部分と、変えてはいけない部分というのがあったのかもしれません。既に購入しているカスクオーナーが受け入れられる部分なのかどうか、もう少し吟味する必要があったのではないでしょうか。

私達ウイスキー愛好家は、蒸溜所を取り巻く様々な問題や脅威を理解しながら、より高品質で美味しいウイスキーの製造を応援し、日頃から消費し、見守っていかなければなりません。

蒸溜所側も、応援してくれる愛好家や消費者、そしてプライベートカスクオーナーの事を配慮し、寄り添いながら共に歩んでいく必要があります。

実は、筆者も「静岡プライベートカスク」を購入しているカスクオーナーです。今回の件について思うところは多々ありますが、高品質なジャパニーズウイスキーとして、静岡ウイスキーとして、ブランド価値を下げないよう、取り組んで頂きたいという事と、今後も愛好家の方が安心して「静岡プライベートカスク」を購入し、愉しめるよう取り組んで頂きたいと思います。

 

この記事を書いた人
新海 博之

1981年7月17日 北海道北広島市出身
大学卒業後、NTTデータカスタマサービス㈱へ新卒入社。
2010年「麻布十番BAR新海」を開業 → 2016年、名物「薬膳カレー」を開発 → 2018年「虎ノ門BAR新海」、2019年には「芝大門BAR新海」を開業 → 2020年 ウェブメディア「Japanese Whisky Dictionary」をスタート。
バーテンダーの私達だから出来る事として、ジャパニーズウイスキーの魅力を日々発信する。

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