ついに発売される秩父第二蒸溜所の原酒を使用したイチローズモルト。第一との違いと共に解説。
秩父第二蒸溜所の原酒は以前の秩父ウイスキー祭りなどでボトリングされた経緯はありますが、全国一般向けの発売されるのは初めて。
どのような味わいに仕上がっているのでしょうか?
1.Ichiro’s Malt CHICHIBU DISTILLERY Ⅱ
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1-1.商品情報
埼玉県北西部の深い山々に囲まれた秩父で生まれた新たな歴史は、2019年に次なる一歩を刻み始めました。
伝統と革新、変化と継承、それぞれが調和を持ってつくりあげられた原酒は、直火蒸溜による重厚な味わいと艶やかな果実香が特徴で、時間とともにその楽しみを深めていきます。
バーボンバレル主体のブレンドで、濃厚な蜜のような甘みと深みのある果実感、そして長く続くスモーキーでモルティな余韻が印象的です。秩父第2蒸溜所から生まれた初めてのシングルモルト。
その新たな一歩を、これからの未来を想いながら、ゆっくりとお楽しみください。【テイスティングコメント】
香りは、バニラの甘さにパイナップルキャンディや洋ナシのようなフルーティーさが重なり、加えてべっ甲飴のような複雑なニュアンスが感じられます。
味わいは、はちみつのまろやかな甘さに、アップルパイやカスタードクリームの濃厚さ、シナモンやナツメグのスパイスが加わり、奥行きのある印象です。
余韻はスモーキーで、麦の厚みを伴いながら長く続きます。引用:メーカー資料
1-2.商品スペック
アルコール度数 55% 酒別 シングルモルトウイスキー 樽種 不明 内容量 700ml 本数 不明
2.株式会社ベンチャーウイスキー 秩父蒸溜所
2008年に操業をスタートした秩父蒸溜所は、僅か数年で「イチローズモルト」として世界が注目するウイスキーメーカーとなりました。
創業者「肥土伊知郎」氏の父が経営していた「東亜酒造」は羽生蒸留所を所有してウイスキー製造を行っていましたが、肥土氏が2001年に引き継いだ時には経営不振となっており、2003年に「日の出通商」へ営業譲渡されます。その時にウイスキー事業からの撤退も決定され、貯蔵されていたウイスキーは廃棄される危機を迎えてしまいます。
引き取り手探しに奔走し、笹の川酒造からの協力を得る事に成功し、貯蔵庫を間借りして羽生蒸留所に貯蔵されていたウイスキーを移動する事ができました。その後、笹の川酒造と共に羽生蒸留所の原酒を使ったウイスキーの販売を行いました。
肥土氏は、2004年に㈱ベンチャーウイスキーを設立し、2007年に肥土氏自らの故郷でもあり、酒造りに適した環境でもある事より秩父にウイスキー蒸留所を完成させます。
秩父蒸溜所では、秩父の風土に根ざしたシングルモルトウイスキー造りが行われています。
創業者の肥土伊知郎氏はジャパニーズウイスキーであることに誇りを持ち、小さなミル、マッシュタン、ミズナラ製の発酵槽、スコットランド・フォーサイス社製のポットスチルで手づくりに拘りモルトウイスキーを生産しています。
秩父蒸溜所周辺は自然豊かで空気がきれいで質の良い水、夏は高温多湿で朝晩が氷点下にいたる寒さの厳しい環境です。その厳しい気候が織りなす寒暖差がウイスキーの熟成に多大な影響を与え、短い熟成期間にも関わらずフルーティでバランスの取れたウイスキーに仕上がります。

2019年10月には、秩父蒸溜所の近隣に「秩父第2蒸溜所」を設立し稼働開始。
第2蒸溜所の生産量は第1蒸溜所のなんと5倍。一度に仕込む麦芽は2t。ポットスチルは5倍の量を蒸溜できるよう形は同じストレート型だがかなり大きなポットスチルになっている。フォーサイス社製でガス直火蒸溜機を使用。
2023年4月には、苫小牧東部地域(苫東)の臨空柏原地区に、グレーンウイスキーの蒸溜所を新設すると発表しました。5月8日から総投資額数10億円で整備し、2025年春の操業開始を目指すとのことで現在準備中。
代表の肥土伊知郎氏は新設の蒸溜所をグレーンウイスキー蒸溜所として計画する事を語っており、操業開始当初は北米産トウモロコシを主原料としながらも道産品も価格動向を見極めながら積極的に取り入れる方針とし、将来的には完全純国産のシングルグレーンウイスキーや秩父第1、第2蒸溜所のモルトウイスキーとバッディングさせたブレンデッドウイスキーを作っていくことは想像に難くありません。
新設の蒸溜所の稼働が安定し、供給量も増えていけばイチローズモルトブランドの更なるラインナップの拡大や市場への供給量の増加も期待でき、我々がより気軽にイチローズモルトブランドのウイスキーを楽しめる日もそう遠くないのではないでしょうか。
蒸溜所竣工へ向けた進捗等、今後の動向を追いながらやがて造られる新たなウイスキーの誕生を期待して待ち続けていきたいところです。
4.最後に
第一蒸溜所とはかなり製造のスペックも違い、テイスティングノートをみても今までにはない表現が多くなっているのが印象的です。
フルーティーな要素と甘さ、スモーキーな要素を多く含んだ本製品、見かけたらぜひ召し上がってください。
最後に:ジャパニーズウイスキーのおすすめ書籍
世界的なトレンドを巻き起こしている「ジャパニーズウイスキー」の事をもっと知りたい、もっと勉強したいという方は、是非こちらの書籍をおすすめいたします。
(1).Whisky Galore(ウイスキーガロア)Vol.50 2025年6月号
『ウイスキーガロア』6月号、巻頭特集はシングルモルトを世界に知らしめたディアジオ特集・後編。
メーカー別に蒸留所を集成・徹底解説する新シリーズ「スコッチ蒸留所名鑑」を始動。
第1弾ではスコットランドに30の蒸留所を擁するディアジオ社が登場!
最新号ではスペイサイド・アイラの20蒸留所を一挙掲載します。
[巻頭特集]
スコッチ蒸留所名鑑 [第1弾 ディアジオ 後編]
ディアジオ社の蒸留所を一挙紹介 <スペイサイド・アイラ編>
カードゥ/モートラック/クラガンモア/グレンエルギン/ローズアイル/カリラ/ラガヴーリン/ポートエレン/オスロスク/ベンリネス/ダルユーイン/ダフタウン/グレンダラン/グレンロッシー/マノックモア/リンクウッド/インチガワー/ストラスミル/グレンスペイ/ノッカンドオ
◆Chinese Whisky ――国家級 中国威士忌 最新事情
叠川(チュアン)蒸留所/沃林(オーリン)クーパレッジ/青島(チンタオ)蒸留所
◆日本のクラフト蒸留所最前線
新道蒸溜所/朝倉蒸溜所
◆ジャパニーズクラフトの開拓者たち[第6回] 小正嘉之助蒸溜所 小正芳嗣氏
(2).ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー
世界的にも有名なウイスキー評論家で、ウイスキー文化研究所代表 土屋守先生の著書「ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー」です。
ウイスキーの基礎知識、日本へのウイスキーの伝来、ジャパニーズウイスキーの誕生、広告戦略とジャパニーズウイスキーの盛隆、そして、現在のクラフト蒸留所の勃興まで。日本のウイスキーの事が非常にわかりやすくまとめられた一冊。
(3).ウイスキーと私(竹鶴政孝)
日本でのウイスキー醸造に人生を捧げた、ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝。ただひたすらにウイスキーを愛した男が自らを語った自伝の改訂復刻版。若き日、単身スコットランドに留学し、幾多の苦難を乗り越えてジャパニーズ・ウイスキーを完成させるまでの日々や、伴侶となるリタのことなどが鮮やかに描かれる。
(4).新世代蒸留所からの挑戦状
2019年発売。世界に空前のウイスキーブームが到来しているいま、クラフト蒸留所の経営者たちは何を考え、どんな想いでウイスキー造りに挑んだのか。日本でクラフト蒸留所が誕生するきっかけを作った、イチローズ・モルトで有名なベンチャーウイスキーの肥土伊知郎氏をはじめとする、13人のクラフト蒸留所の経営者たちが世界に挑む姿を綴った1冊。
(5).ウイスキーライジング
2016年にアメリカで出版された『Whisky Risng』の日本語版であり、内容も大幅にアップデート。ジャパニーズ・ウイスキーの歴史が詳細に記述されているだけでなく、近年、創設がつづくクラフト蒸溜所を含む、日本の全蒸溜所に関するデータも掲載。そのほかにも、今まで発売された伝説的なボトルの解説や、ジャパニーズ・ウイスキーが飲めるバーなども掲載されています。
(6).ウイスキーと風の味
1969年にニッカウヰスキーに入社した、三代目マスターブレンダーの佐藤茂夫氏の著書。
『ピュアモルト』『ブラックニッカクリア』『フロム・ザ・バレル』の生みの親でもあり、なかでも『シングルモルト余市1987』はウイスキーの国際的コンペティションWWA(ワールド・ウイスキー・アワード)にて「ワールド・ベスト・シングルモルト」を受賞。
竹鶴政孝、竹鶴威の意志を引き継いだブレンダー界のレジェンドが語る今昔。