世界遺産である富士山のふもとに位置する富士御殿場蒸溜所。
モルトウイスキーとグレーンウイスキーの仕込からボトリングまで一貫して行う、世界でも珍しい蒸溜所。
1.概要
キリンビール、JEシーグラム、シーバスブラザーズの3社合弁による「キリン・シーグラム」が1972年に設立。
その翌年11月に誕生したのが富士御殿場蒸溜所です。
キリン、シーグラム社、シーバス社、それぞれの技術が融合した蒸留所です。
富士の伏流水を用いた、日本人の舌に合う「クリーン&エステリー」をモットーとしたウイスキーを作りが特徴です。
富士山麓のテロワールを生かし、2023年からは御殿場産大麦の使用を開始。
「純御殿場産」を目指していく。
2021年より生産力が強化され、発酵槽が従来のステンレス製のほかに木桶が追加されました。
蒸留器は小型の4基を増設して6基が稼働中。
また、グレーンウイスキーの製造用に4塔のマルチカラム、バーボン製造に使われるビアカラム、ダブラーやケトルも備えて、多彩な原酒造りを実現しています。
2023年にはフランスの世界的ワインメーカー「ペルノ・リカール」との提携を発表し、世界市場への販路拡大を図っていくようです。
2.基本情報
2-1.オーナー
キリンディスティラリー(キリンホールディングス)
2-2.所在地
〒412-0003
静岡県御殿場市柴怒田970番地
2-3.アクセス
【バス】
JR御殿場駅から無料シャトルバス運行
※御殿場駅改札を出て右側の箱根乙女口に進み、一般バス乗降場4番がシャトルバスの乗り場です。
【車】
東名高速御殿場I.Cを山中湖方面に降り、国道138号線を直進(約7km)
「水土野出口」で降りて、水土野東交差点を右折
左側に見えるポットスチルを目印に左折。
2-4.操業開始
1972年(昭和47年)
2‐5.主力商品
創業時から掲げている「クリーン&エステリー」は最初期のリリースから体現し続けてきました。
まさに日本人の舌に合うウイスキーです。
風土、食文化などあらゆるシチュエーションにマッチする繊細な味わいは、ブレンダーの最高峰言える称号ウイスキーマガジン主宰の「HALLofFAME」を受賞した田中城太氏の手腕が光る一本です。
ISC2020(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ) 金賞受賞
ISC2021 金賞受賞
ISC2022 金賞受賞
TWSC2022(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション) 銀賞受賞
その他、富士御殿場蒸溜所からジャパニーズの名を冠した純国産ウイスキーも新しくリリースされました。
ジャパニーズウイスキー業界では今後、世界基準での適正な価格に向けて価格改定が続きますが、6000円前後で国産のシングルモルトが購入出来ます。
さらには「ペルノ・リカール社」との提携で世界市場への販路を拡大していくと思われるので、ぜひ買えなくなる前に味わっておくべき一本です。
3.見学・ビジターセンター
平日10:30~14:10 土日祝 9:30~14:10
料金500円
約80分(工場見学60分、テイスティング20分)
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3‐1.周辺グルメ情報
せっかくの富士。
その近くにはレジャー施設やもちろんグルメ、宿泊観光など盛りだくさん。
帰りには御殿場プレミアムアウトレットでのお買い物も○
3‐2.観光宿泊
4.製造スペック
標高約620m、年平均気温13℃、平均湿度80%、冷涼な気候、一年を通して幾度となく霧が発生します
モルトウイスキー、グレーンウイスキーのほかにチューハイ、ミネラルウォーターなども生産しています。
原料はトウモロコシ9.6トン、大麦麦芽0.5トン。
仕込水は富士山の伏流水で、蒸留所内に3か所ある井戸水から汲み上げて使用しています。
富士御殿場蒸溜所の最大の特徴は、3タイプのグレーンウイスキーのつくり分けにあります。
一般的とされるマルチカラムに加え、ケトルとダブラーという個性の違う蒸留器を稼働させている蒸留所は、世界的に見てもかなり稀で、マルチカラム蒸留器からはライトタイプの原酒が生まれ、ケトル蒸留器はその名の通りやかんのような形状を持つミディアムタイプの原酒、ダブラー蒸留器はシーリング社の開発した蒸留器で、バーボン製造のスタンダードとなっており、ヘビータイプの原酒を生み出します。
生産量 | 1200万リットル(モルトとグレーン合わせて)※データ2008年 |
仕込み水 | 富士山の伏流水(硬度約55度) |
原料 | とうもろこし&大麦麦芽&ライ麦(カナダ産) |
仕込み量 | 5.7トン(モルト) |
モルトミル | スイス・ビューラー社製ローラーミル |
糖化槽 | 三宅製作所製ステンレス・セミロイタータン(4万5000リットル) |
麦汁量 | 約3万リットル |
発酵槽 | 東北大江工業製ステンレス8基(内、モルトウイスキー用6基) 木製ダグラスファー4基 |
ポットスチル | 初留 三宅製作所製ストレート型2基(4000リットル) 三宅製作所製ランタン型1基(2万8000リットル) 再留 三宅製作所製ストレート型1基(3200リットル) 三宅製作所製ランタン型1基(3200リットル) 三宅製作所製バルジ型1基(1万7000リットル) |
その他 |
グレーンウイスキー用マルチカラム連続式蒸留機4塔 ビアカラム(シーブトレイ26棚段)1塔 ケトル(バッチ式単式蒸留器60262リットル)1基 ダブラー1基(11230リットル) |
冷却装置 | シェル&チューブ |
ボトリング設備 | 有り |
熟成庫 | 有り |
5.熟成環境について
熟成庫は一棟につき3万樽以上を貯蔵できる巨大な高層ラック式4棟と、ダンネージ式が1棟あり、合計で約13万樽を貯蔵することができようになっています。
樽詰めは、一般的なアルコール度数63%ではなく、熟成を穏やかに進めるために50.5%で樽詰めされる事が、大きな特徴のひとつでした。
しかし、近年ではバリエーションを増やす目的でそれ以外の度数でもバレルエントリーされています。
メインで使用される樽はアメリカンホワイトオーク製のバーボンバレル180リットル樽です。
6.蒸留所ストーリー
6-1.歴史
1972年 (昭和47年) |
「キリンビール」アメリカ「JEシーグラム」イギリス「シーバースブラザーズ」社の3社合弁で「キリン・シーグラム」社設立 |
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1973年 (昭和48年) |
キリンシーグラム御殿場工場完成、製造開始 |
1974年 (昭和49年) | 『ロバートブラウン』発売 |
1975年 (昭和50年) |
『ダンバー』発売 |
1979年 (昭和54年) |
『エンブレム』発売 |
1981年 (昭和56年) |
『クレセント』発売 |
1983年 (昭和58年) |
『NEWS』発売 |
1984年 (昭和59年) |
『Saturday1』『Saturday2』発売 |
1985年 (昭和60年) |
『ロバートブラウンJR.』発売 |
1986年 (昭和61年) |
『ボストンクラブ』発売 |
1989年 (平成元年) |
『テンディスティラリーズ』発売 |
1992年 (平成4年) |
『Hips』発売 |
1993年 (平成5年) |
『富士御殿場ピュアモルト』発売 |
1994年 (平成6年) |
『Rice Whisky』発売 |
1998年 (平成10年) |
『Camp』発売 |
1999年 (平成11年) |
『エバモア1999』『ボストンクラブ淡麗原酒』『ボストンクラブ豊醇原酒』発売 |
2002年 (平成14年) |
キリンビール傘下となり、キリンシーグラムからキリンディスティラリーに社名変更 『キリンシーグラム30thアニバーサリー』発売 |
2004年 (平成16年) |
『The Fuji Gotembaシングルモルト18年』『The Fuji Gotembaシングルグレーン15年』発売 |
2005年 (平成17年) |
『キリンウイスキー富士山麓』『富士山麓樽熟50°』『富士山麓シングルモルト18年』発売 |
2007年 (平成19年) |
『シングルカスク富士御殿場10年』『薫風』発売 |
2011年 (平成23年) |
『オーシャンラッキー ゴールド』発売 |
2013年 (平成25年) |
『富士御殿場シングルグレーン27年シングルカスク』『同40thアニバーサリー』発売 ビジターセンターリニューアル |
2014年 (平成26年) |
『富士御殿場ブレンダーズチョイス・シングルモルト』『同・シングルグレーン』発売 |
2015年 (平成27年) |
『富士御殿場シングルモルト17年』『富士御殿場シングルグレーン25年』発売 |
2016年 (平成28年) |
『オークマスター樽薫る』『富士山麓 樽熟原酒50°』『富士山麓ブレンデッド18年』『富士御殿場ディスティラーズセレクト(シングルモルト、シングルグレーン)』発売 |
2018年 (平成30年) |
『富士山麓シグニチャーブレンド』『ホワイトホース ハイボール』缶発売 |
2019年 (令和元年) |
生産施設の増強開始 『オークマスター森の風薫る』発売『オークマスター樽薫る』リニューアル |
2020年 (令和2年) |
『キリンシングルグレーン富士』『同30年』『キリン陸』発売 |
2021年 (令和3年) |
発酵槽、ポットスチル4基を増設(旧蒸留釜のうち初留、再留各1基は稼働停止) 熟成庫拡張 |
2022年 (令和4年) |
『キリンシングルブレンデッドジャパニーズウイスキー富士』 『同2022マスターピース』発売 『キリンウイスキー陸』をリニューアル 『キリンシングルグレーンジャパニーズウイスキー富士』 中国、オーストラリアでの販売を開始 蒸留所の英語名称を「Mt. Fuji Distillery」に改称 |
2023年 (令和5年) |
『キリン シングルモルトジャパニーズウイスキー富士』発売 蒸留所50周年記念『同50th Anniversary Edition』3000本限定発売 御殿場プレミアム・アウトレット店を期間限定でオープン 『シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー富士50th Anniversary Edition』3000本限定発売 |
6-2.歴代のブレンダー
マスターブレンダー 田中城太
1988年キリンビール入社
1989年ナパバレーのワイナリー駐在後、カリフォルニア大学デービス校大学院修士課程を修了。
1995年帰国、ワインの商品開発業務を担当。
その後、富士御殿場工場での商品開発や本社マーケティング部で輸入ワインのブランドマネージャー業務に従事。
2002年キリンビール社が買収したフォアローゼス社へ異動。
ケンタッキー州のフォアローゼス蒸溜所にてバーボンの製造及び商品開発全般に携わる。
2009年帰国し、キリンビール商品開発研究所でブレンダー業務従事。
2010年チーフブレンダー就任。
2017年マスターブレンダー就任。
同年、ウイスキー業界の国際的アワード「アイコンズ・オブ・ウイスキー2017」においてマスターブレンダー・オブ・ザ・イヤー受賞(世界最優秀賞)
ウイスキーマガジン主宰によるHALLofFAME受賞。
どちらの賞も世界最優秀賞で名実ともに世界に誇るマスターブレンダーの一人として数えられるようになりました。
2019年米国のバーボン業界における功績を認められ、日本人として唯一、ケンタッキーバーボン協会の会員組織 「The Order of the Writ」創立時メンバーとして迎えられました。
チーフブレンダー 小野田 航二
ブレンダー 竹重元気
2006年キリンビール株式会社に入社。
2009年まで主に焼酎の技術開発に従事。
2010年からは商品開発研究所にてRTD(Ready to Drink※蓋を開けてすぐに飲めるアルコール飲料の事)の新商品開発を中心に活躍。
2018年に富士御殿場蒸溜所のブレンダーに就任。
『陸』『富士』を中心に開発を担当しています。