一人のウイスキー好きがウイスキー輸入販売業を立ち上げ、肥土伊知郎氏の助言を経て、かつて伝説と謳われた軽井沢蒸留所の系譜を継ぐ。
『我忘吾』の通り、ひたすらに我道を往く蒸留所。
1.概要
静岡県静岡市のオクシズ(奥静岡エリア)の玉川地区にあり、一級河川安倍川の支流である、安倍中河内川のほとりに建っています。
建物は、日本の美と西洋文化(アメリカウェストコーストの木造建築をイメージ)の融合をテーマにデザインされており、静岡在住のアメリカ人建築家デレック・バストン氏とのコラボレーションにより内外装に静岡の木材を多用した、見た目にも美しいウイスキー蒸留所です。
静岡蒸溜所には「K」と「W」という呼び名の2基の初留用蒸留機が稼働しています。
「K」は、1950年代に日本で製造された歴史ある軽井沢蒸留所の蒸留機。
2011年11月に惜しまれつつ閉鎖した軽井沢蒸留所が競売にかけられていた所を、2015年にガイアフローディスティリングが製造設備一式を505万円で落札する事に成功。
その後、移設され修理・改修し伝説の蒸留機は復活しました。
そのしなやかに伸びた優美なシルエットと、蒸気の間接加熱により、軽やかで華やかな味わいの原酒を生み出しています。
またフォーサイス社が製作した蒸留器「W」はおそらく世界唯一の薪を使用した直火式の蒸留器です。
薪に使用する材料も地元の間伐材を用い山林保護に一役買っています。
2018年、地元産の強いこだわりはついに、オール静岡県産ウイスキーの仕込みを作る事に成功しました。
2.基本情報
2-1.オーナー
ガイアフローディスティリング
2-2.所在地
〒421-2223
静岡県静岡市葵区落合555
2-3.アクセス
【JR】
静岡駅前から路線バス「しずてつジャストライン」で約1時間「奥の原上」下車。
もしくは「上助」下車して徒歩15分。
【車】
JR静岡駅から45分
新東名「新静岡」ICから約20分
2-4.操業開始
2016年
2‐5.主力商品
「気軽に楽しめる親しみやすいウイスキー」がテーマとあって、比較的手に入りやすく、安価な通年商品となるブレンデッドMがオススメ。
静岡蒸溜所のモルトウイスキー原酒と、海外産のモルトウイスキーおよびグレーンウイスキー原酒をブレンドしていることから、出会いを意味する「MEET」のMを冠しています。
海外から輸入した原酒は、静岡蒸溜所の熟成庫で追熟させることで、静岡の自然環境が生み出す豊かな香味をまとい、それぞれの原酒の味わいを生かしながら、海外産の原酒を組み合わせ、通常のブレンデッドウイスキーにはない複雑で奥深い味わいが実現しています。
また、ブレンデッドでありながら冷却濾過を施さず着色料も無添加ということも大きな特徴です
現在のところありません。
3.見学・ビジターセンター
要事前予約
20歳以上:1,100円(税込)
20歳未満:無料(20歳以上の保護者の同伴が必要です)
※プライベートカスクのオーナーであれば同伴者2名まで無料
所要時間
見学60分+有料試飲タイム
製造工程の見学が約60分。その後、試飲室にて最長60分滞在可能。
見学後は自由解散
試飲室にてブラックアダー社の取り扱い商品と静岡蒸溜所のウイスキーが購入できます。
3‐1.周辺グルメ情報
蒸留所までは車やバスが必須ではありますが、静岡駅にさえ戻れば行動しやすく、市内の飲食店街もあります。
見学帰り、バス停の待ち時間に蒸留所すぐ向かいのカフェレストラン「BOSCO」さんで休憩もアリ。
静岡と言えば、定番のステーキレストラン「さわやか」もお忘れなく。
3‐2.観光宿泊
静岡市内に戻れば使うホテルは多種多様。
一風変わった「ビル泊」という市内中にホテルの一室が点在する分散型ホテルも非日常が味わえます。
4.製造スペック
2011年11月に閉鎖した軽井沢蒸留所から静岡蒸溜所に移設されました。
軽井沢蒸留所にあったポットスチルの4台の内、三号機(再留器)のみが運用に耐えうる保存状態だった為、三宅製作所が改修後「K」と名付けられ、現在初留器として活躍中。
軽井沢蒸留所から解体後、再留釜のコンディションを確認すると、釜の本体部分は使用可能だったものの、他の個所はヘッドから上に穴が空いている等、再利用が難しいことが判明。
そこで4基の蒸留機から状態の良い部品を組み合わせて、1基を組み上げることに。
再留釜の釜本体をベースに、ヘッドやラインアーム、コンデンサーを組み付けて、ポットスティル「K」は誕生しました。
現在も、ほか三台の蒸留器は静岡蒸溜所内にて展示されています。
その他、ポーティアス社製のモルトミルは明治機械株式会社にてオーバーホールされ稼働中。
軽井沢蒸留所にあったもので、そのまま使用できたのが樽タガ締め機で現在も活躍中。
世界で唯一と言われるフォーサイス社製の薪直火蒸留器「W」は「Woodfired」の”薪の炎“の頭文字から取られており、ポットスチル下部の薪を投入する部分には国内のピザ窯メーカーのノウハウが活かされています。
間伐材の薪は株式会社玉川きこり社から提供されています。
再留器の名前は「S」静岡、スピリッツ、シングルモルト、スフィア(球)などの頭文字から。
発酵槽は日本酒ではポピュラーですが、日本の杉材をウイスキー造りの発酵槽に用いるという発想は、静岡蒸溜所が最初です。
生産量 | 7万リットル |
仕込み水 | 中河内川伏流水 蒸留所内の井戸水(硬度69) |
仕込み量 |
ワンバッチ1トン |
モルトミル | ポーティアス社製ローラーミル4本(旧メルシャン軽井沢蒸溜所のもの) |
糖化槽 | 三宅製作所製ステンレス・フルロイタータン |
麦汁量 | 5200リットル |
使用酵母 |
マウリ製ドライイースト(ピナクル) 沼津工業技術支援センター製静岡モルトイースト(NMZ-0688) |
発酵槽 | ウッドワークス社製オレゴンパイン4基/8000リットル ウッドワークス社製静岡県産杉材6基/8000リットル |
ポットスチル |
初留 初留 |
冷却装置 | 初留再留共にシェル&チューブ |
ボトリング設備 | 有り |
熟成庫 | ダンネージ式1棟 ラック式(6段)1棟 第3熟成庫3,800樽 |
その他 |
樽詰め度数63.8% |
5.熟成環境について
標高は200m前後、周囲は400m級の美しい山々に囲まれ市街地より気温は常に2〜3度は低く、天候もいわゆる山の天気です。
夏の日中は30度を超え、冬の早朝には-10度近くに下がるときもありますが、雪が降ることはないようです。
夏も冬も湿度が高く、雨の日には山々にモヤがかかります。
比較的温暖な環境の為、エンジェルズシェアは大きいようでバレルサイズは平均5~6%
樽の配置によってもエンジェルスシェアに大きく差があるようです。
- タガ締め機。静岡蒸溜所公式サイトより
6.蒸留所ストーリー
6-1.歴史
2012年 (平成24) |
ガイアフロー、ウイスキー輸入代理店として創業 |
---|---|
2014年 (平成26) |
ガイアフローディスティリング設立 |
2015年 (平成27) |
元メルシャン軽井沢蒸留所の製造設備の取得 蒸留所の建設を開始し、ウイスキー製造業参入 |
2016年 (平成28) |
ガイアフロー静岡蒸溜所竣工 ウイスキー製造免許取得、蒸留開始 |
2017年 (平成29) |
樽単位で購入できる『静岡プライベートカスク』販売開始 |
2018年 (平成30) |
年1でリリースするニューポット、ニュースピリッツ、ウイスキーを届ける 『静岡プレミアムボトル・セレクション』販売 静岡県産杉材発酵槽を3基追加、計8基となる 冷却用貯水池、第2熟成庫完成 「オール静岡産ウイスキー」の製造に向け、蒸留所近隣で栽培・収獲された大麦を原料に使用 |
2019年 (令和元年) |
『ブラックアダー 静岡フェア2019限定ボトル 静岡蒸溜所 シングルモルト ニューメイクスピリッツ 軽井沢蒸留機 29ヶ月』発売 その他にも、ブラックアダー及びアスタモリスとコラボレーションする形で、ニューメイクとカスクサンプルセットを海外限定発売 (ドイツ ニュルンベルクのイベント「THE VILLAGE」にて) オール静岡産ウイスキー造りで、静岡県焼津市で3軒の農家の協力により大麦栽培(二条大麦ニューサチホゴールデン)を本格的に開始、翌年5月収穫。 |
2020年 (令和2) |
初のガイアフローシングルモルト日本ウイスキー『静岡プロローグK』発売 静岡県産杉材発酵槽2基追加 |
2021年 (令和3) |
『シングルモルト静岡プロローグW』『同コンタクトS』発売 |
2022年 (令和4) |
『ガイアフローウイスキーブレンデッドM』 『ブラックアダー ロウカスク(樽出し原酒)シングルモルト静岡2018 3年 Cask No. 781』『同 Cask No. 1357 日本大麦100% 日本ワイン樽熟成』 日本産大麦麦芽100%使用した『シングルモルト静岡 ポットスティルK 純日本大麦 初版』『同ポットスティルW 純外国産大麦 初版』発売 ロッテが蒸留所とのコラボレーションで日本のクラフト酒チョコレート『YOIYO 静岡-782-』(シングルカスク782を使用)発売 第3貯蔵庫を建設 |
2023年 |
『シングルモルト静岡ポットスティルK 純外国産大麦 初版』発売 100リットル樽単位での予約サービス『プライベートカスク2023 クォーター』を販売 『ブラックアダー ロウカスクシングルモルト静岡 for Tokyo International Bar Show 2023』『シングルモルト日本ウイスキー静岡 ポットスティルW 純日本大麦 初版』『静岡蒸溜所プライベートカスク2017-2023 5年 for THE WHISKY PLUS』発売 ウイスキーづくり体験の『静岡ウイスキースクール』を開校(随時定期的に開催) 『ガイアフロー静岡 2018 4年 for Whisky Festival 2023 in YOKOHAMA』『静岡 ユナイテッドS 2023 夏』500mlボトルで発売 『静岡プライベートカスク ディスティラリー・リザーブ ピーテッドモルト オクタヴ3年 静岡クラフトビール&ウイスキーフェア 2023静岡蒸溜所記念ボトル』 『静岡ポットスティルK 純⽇本産⼤⻨ 2023 年版』発売 静岡産100%で製造した『静岡プライベートカスクディスティラリー・リザーブ Cask No. 835 100%静岡大麦 exバーボンバレル 5年』発売 『静岡 ユナイテッドS 2023 冬』発売 |
2024年 (令和6) |
『ガイアフローウイスキー ブレンデッドM ルーキーレーシング 2023 エディション』『静岡 ポットスティルW 純外国大麦 2024年版』『静岡 ユナイテッド S 2024 夏』『静岡クラフトビール&ウイスキーフェア 2024 静岡蒸溜所記念ボトル』『静岡 ポットスティルK 純外国産大麦 2024年版』発売 『静岡プライベートカスク2024 オクタヴ』『プライベートカスク2025 バレル』販売 『シングルモルト日本ウイスキー 静岡 ポットスティルW 純日本大麦 2024年版』発売 |
6-2.歴代のブレンダー
中村大航
昭和44年静岡市清水区生まれ。
日本大学経済学部卒。
2000年、34歳で祖父の代から続く家業の精密部品製造会社の代表に就任。
11年間経営に携わった後、2012年1月、当初は再生可能エネルギー事業での起業を計画してガイアフロー株式会社設立。
同年6月、スコッチの産地として知られるスコットランド・アイラ島の蒸溜所巡りの旅をきっかけに、ウイスキーを自らの手でつくることを決意。
中でも創業間もない「キルホーマン蒸留所」は小さな蒸留所が持つスピリットや仕事の様子、地域を大切にする考えに深く感銘を受ける。
帰国後、ガイアフロー株式会社の事業目的をウイスキー事業を核に再構成。
2014年に、ウイスキーの製造・販売を行うガイアフローディスティリング㈱として設立。
7.その他の蒸留所一覧
