竹鶴政孝をスコットランドに送り出した人物でマルスウイスキーの生みの親、岩井喜一郎をルーツに持ち「ローカルはグローバルである」というスローガンの元、ウイスキーはもちろん焼酎、ワインなどの部門でも、世界的な賞を総なめにする名実相伴う、老舗の蒸留所。
1.概要
本格焼酎「桜島」が有名な鹿児島の総合酒類メーカー「本坊酒造」が1985年に開設した蒸留所。
1949年にウイスキー製造免許を取得、1960年より山梨県笛吹市石和町でワイン事業展開と同時にウイスキー生産を行う。
ウイスキー造りの理想の地を求め、長野県上伊那郡宮田村にマルス信州蒸溜所(現駒ヶ岳蒸溜所)をオープン。
中央アルプス駒ヶ岳山麓、標高798メートルの緑深い木々に覆われた環境のなか、「シングルモルト駒ヶ岳」をはじめ、各種ブレンデッドウイスキーを製造している。
マルス信州蒸溜所は1992年から19年間、ウイスキー不況の煽りを受けて生産休止に追い込まれるも、2011年2月ウイスキー需要回復の兆しをいち早く察知し再稼働開始。
2020年には総工費12億円を投じ、35年ぶりとなる全面リニューアル工事を行いました。
ショップとバーを併設するビジター棟も新しくなり、蒸留棟の見学が可能に。
2021年4月は、「ベンチャーウイスキー秩父蒸溜所」とのジャパニーズウイスキー業界初の原酒交換により実現した、ジャパニーズブレンデッドモルトを発売して話題になりました。
2024年「マルス駒ヶ岳蒸溜所」に名称を変更。
2.基本情報
2-1.オーナー
本坊酒造
2-2.所在地
〒399-4301
長野県上伊那郡宮田村4752−31
2-3.アクセス
【車】
≪高速道路≫
駒ヶ根インターより車で約7分
【JR】
JR飯田線で「駒ヶ根駅」または「宮田駅」を下車後、タクシーで約10分
【バス】
「菅の台バスセンター」バス停から徒歩約20分
2-4.操業開始
昭和60年(1985年)
2‐5.主力商品
古くからウイスキーを製造している本坊酒造は、他のクラフト蒸留所と比べ、原酒を多く所持しているのも特徴。
毎年リリースされるリミテッドシリーズや、屋久島エイジングシリーズ、加えてもう一つの蒸留所「津貫蒸溜所」の方の商品も合わせると、一年を通してリリースする間隔は短く、常に私たち消費者を楽しませてくれます。
その中でも通年商品として発売されている商品の中で、オススメなのが『岩井トラディション』です。
現在、ありません。
3.見学・ビジターセンター
マルス駒ヶ岳蒸溜所内にはビジター棟があり、見学者に向けたサービスが充実しています。
加えて蒸溜所限定のウイスキー、マルスワイン、南信州ビール、ショップオリジナルグッズを販売しており、BARカウンター後方には、歴代マルスウイスキーのボトルや賞状などが飾られているのでそこも、一見の価値ありです。
基本予約なしでも見学は出来るものの、予約された方優先の為、予約しておくと安心です。
営業時間
9:00-16:00(受付/Bar利用 15:30迄)
休館日
12/29-1/3 ※臨時休業あり
入館
無料(テイスティングは有料)
見学時間
蒸溜所(自由見学):約20分
駐車場
無料
3‐1.周辺グルメ情報
蒸溜所周辺となると、どうしてもスキー場やペンションなどになってしまいますが、最寄り駅の駒ケ根駅周辺であれば飲食店が軒を連ね、駒ヶ岳ウイスキーを多く置いているBARなどもあるようです。
3‐2.観光宿泊
積雪地帯特有のスキー場や温泉、レジャー施設はもちろん充実。
他、蒸留所の近くにさまざまな蝶をラベルに施した『ル・パピヨンシリーズ』限定ウイスキーのモチーフにもなっている、「アサギマダラの里」はウイスキーの世界観に触れられる貴重な機会。
特に紅葉の時期が過ごしやすくおすすめです。
4.製造スペック
使用麦芽はクリスプ社ベアード社がメインでしたが、2022年から宮田村や駒ヶ根市で栽培された二条大麦も使用しています。
ディスティラリー酵母の他、同一敷地内の南信州ビールのエール酵母も使用。
駒ヶ岳蒸溜所のポットスチルは、もともと岩井喜一郎が竹鶴ノートを参考に作ったものがありましたが、老朽化のため2014年に新しいものに取り替えられました。
新しいスチルの形状は初代の岩井喜一郎のポットスチルを忠実に再現されています。
因みに、2014年まで実際に使用されていた岩井式蒸留釜は現在入り口に展示されています。
この時にマッシュタンを新設したほか、ステンレス製発酵槽3基を新たに導入し、既存の木製3基と合わせて現在は6基の発酵槽が稼働している。ポットスチル2基(初留・再留)も14年に新設。いずれも三宅製作所製で、かつて山梨控除油の設計に顧問として携わった岩井喜一郎設計の初代スチルを忠実に再現している。
生産量 | 18万リットル |
仕込み水 | 蒸留所地下120mの井戸水(花崗岩層でろ過された天然水) |
仕込み量 |
ワンバッチ1.1トン |
モルトミル | ドイツカンゼル社製小型ミル |
糖化槽 | 三宅製作所製ステンレス・フルロイタータン(約6000リットル) |
麦汁量 | 4400リットル |
発酵槽 | ステンレス製3基 木製(ダグラスファー)3基 |
ポットスチル | 初留 三宅製作所製ストレート型1基6000リットル 再留 三宅製作所製ストレート型1基8200リットル ※どちらもスチームケトル加熱 |
冷却装置 | 初留 シェル&チューブ 再留 ワームタブ |
ボトリング設備 | 無し |
熟成庫 | ラック式5段(約5800樽収容予定) その他 津貫蒸溜所、屋久島エージングセラー |
5.熟成環境について
中央アルプス木曽駒ヶ岳のふもと標高798メートルに位置し、蒸留所のそばには太田切川が流れています。
寒暖差が激しい地域で、夏は30度に、冬はマイナス15度にも達します。
寒冷地の熟成のイメージはゆるやかに進むと言われていますが高い標高とも相まって、熟成はダイナミックに進みます。
6.蒸留所ストーリー
6-1.歴史
1949年 (昭和24年) |
鹿児島県でウイスキー製造免許を取得。 岩井喜一郎氏の指導によりウイスキー製造開始。 |
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1960年 (昭和35年) |
山梨工場竣工。鹿児島のウイスキー製造免許を移転。 ウイスキー、ワインの製造開始。 岩井喜一郎氏が工場設計と製造指導に携わる。 ブランド名「マルスウイスキー」販売開始。 |
1969年 (昭和44年) |
鹿児島工場ウイスキー製造免許を新規再取得。 |
1984年 (昭和59年) |
鹿児島工場でのモルト原酒蒸留を休止。 |
1985年 (昭和60年) |
マルス信州蒸溜所竣工。 山梨の製造免許を移転、蒸留設備を移設。 |
1992年 (平成4年) |
マルス信州蒸溜所生産休止(~2011年まで)。 |
1995年 (平成7年) |
シングルモルト「モルテージ薩摩12年」「モルテージ駒ヶ岳10年」発売。 |
2000年 (平成12年) |
マルスウイスキー山岳シリーズ、シングルカスクの「宝剣岳14年」「仙涯嶺13年」「越百山12年」「経ヶ岳 10年」「空木岳8年」を発売。 |
2004年 (平成16年) |
「マルスモルテージ1984トリプルカスク20年」 シングルモルト「ヴィンテージ薩摩1984 」発売。 |
2006年 (平成18年) |
「MARS SINGLE CASK VINTAGE MALT WHISKY 駒ヶ岳(1986#448,1989#616)」発売。 |
2009年 (平成21年) |
「MARS SINGLE CASK VINTAGE MALT WHISKY 駒ヶ岳(1988#566,1989#617,1992#1144)」 シングルモルト「The Malt of Kagoshima1984 」発売。 |
2010年 (平成22年) |
ブレンデッドウイスキー「岩井トラディション」発売。 |
2011年 (平成23年) |
マルス信州蒸留所、ウイスキー蒸留を再開。 ピュアモルトウイスキー「マルスモルテージ3プラス25 28年」 「モルテージ駒ヶ岳ピュアモルトウイスキー10年」発売。 |
2012年 (平成24年) |
「シングルカスク駒ヶ岳(1989#1041、1989#1060、1985#162)」発売。 |
2013年 (平成25年) |
「マルスモルテージ3プラス25 28年」がWWA2013で世界最高賞を受賞。 「シングルモルト駒ヶ岳22年」 「シングルモルト駒ヶ岳バーボンバレル24年」 「シングルカスク駒ヶ岳1988#569」 「シングルカスク駒ヶ岳1989#619」発売。 |
2014年 (平成26年) |
マルス信州蒸溜所、岩井喜一郎設計のポットスチルと同形のもの(初留・再留各1基)を三宅製作所に依頼しウイスキー蒸留釜を更新。 「シングルカスク駒ヶ岳1988#557」 ブレンデッドウイスキー「マルスウイスキーツインアルプス」 「ザ・リバイバル2011 シングルモルト駒ヶ岳」 「シングルモルト駒ヶ岳 シェリー& アメリカンホワイトオーク2011」発売。 |
2015年 (平成27年) |
「マルスモルテージ越百モルトセレクション」 「シングルモルト駒ヶ岳ネイチャーオブ信州 竜胆」 「 ザ・ラッキーキャット“サン” ポート&マデイラカスクフィニッシュ 」発売。 |
2016年 (平成28年) |
マルス津貫蒸溜所、マルス屋久島エージングセラー竣工。 「シングルモルト駒ヶ岳 ネイチャーオブ信州 小彼岸桜」 「シングルモルト駒ヶ岳1986 AGED 30 YEARS アメリカンホワイトオークナチュラルカスクストレングス」 「ザ・ラッキーキャット“アッシュ’99”」 「シングルモルト駒ヶ岳シェリー&アメリカンホワイトオーク2011ワインカスクフィニッシュ」 「シングルモルト駒ヶ岳 津貫エイジング」発売。 |
2017年 (平成29年) |
「シングルモルト駒ヶ岳1986 AGED 30YEARSシェリーカスク」 「シングルモルト駒ヶ岳1986 AGED 30YEARSシェリーカスクナチュラルカスクストレングス」 「シングルモルト駒ヶ岳 屋久島エイジング2014」 「シングルモルト駒ヶ岳ネイチャーオブ信州 -信濃蒲公英-」 「ザ・ラッキーキャット“ミント”」 「マルスモルト ル・パピヨン シングルカスク<オオルリシジミ>」 「 マルスモルト ル・パピヨン シングルカスク<アオスジアゲハ>」発売。 |
2018年 (平成30年) |
「シングルモルト駒ヶ岳 AGED 27YEARS」 「シングルモルト駒ヶ岳ダブルセラーズ Bottled in 2018」 「シングルモルト駒ヶ岳リミテッドエディション2018」 「 シングルモルト駒ヶ岳 津貫エイジング Bottled in 2018」 「ザ・ラッキーキャット“メイ”」 「マルスモルト ル・パピヨン シングルカスク<ミヤマシロチョウ>」 「マルスモルト ル・パピヨン シングルカスク<ツマベニチョウ>」 「マルスモルト ル・パピヨン シングルカスク<ミヤマカラスアゲハ>」発売。 |
2019年 |
「シングルモルト駒ヶ岳 リミテッドエディション 2019」 「シングルモルト駒ヶ岳 ダブルセラーズ Bottled in 2019」 「シングルモルト駒ヶ岳 屋久島エージング Bottled in 2019」 「シングルモルト駒ヶ岳 津貫エージング Bottled in 2019」 「シングルカスク駒ヶ岳1990 No.1040 AGED 27YEARS」 「シングルカスク駒ヶ岳2012 No.1493 AGED 6YEARS」 「マルスモルテージ越百マンサニージャカスクフィニッシュ」 「マルスモルト ル・パピヨン シングルカスク<イシガケチョウ>」 「 マルスモルト ル・パピヨン シングルカスク<ギフチョウ>」 「 マルスウイスキー サクラカスクフィニッシュ 」発売。 |
2020年 (令和2年) |
ウイスキー生産設備増強に伴う整備工事完了。 蒸留棟、ビジター棟を新設。 「シングルモルト駒ヶ岳 リミテッドエディション2020」 「シングルモルト駒ヶ岳 屋久島エージング Bottled in 2020」 「シングルモルト駒ヶ岳 IPAカスクフィニッシュ Bottled in 2020」 「シングルカスク駒ヶ岳1991 No.160 AGED 28YEARS」 「マルスモルテージ越百 ワインカスクフィニッシュ 」 「ザ・ラッキーキャット“ハナ”」 「駒ヶ岳ニューポット・ライトリーピーテッド2020 」 「 マルスモルト ル・パピヨン ダブルカスク<ヤクシマルリシジミ>」 「マルスモルト ル・パピヨン シングルカスク<クモマツマキチョウ>」 「マルスモルト ル・パピヨン シングルカスク<クジャクチョウ>」発売。 |
2021年 (令和3年) |
「マルスモルテージ越百 マンサニージャカスクフィニッシュ」 「マルスウイスキー SHIKI ヤマソービニオンカスクフィニッシュ」 「シングルモルト駒ヶ岳リミテッドエディション2021」 「シングルモルト駒ヶ岳 IPAカスクフィニッシュ Bottled in 2021」 「ザ・ラッキーキャット“チョコ”」 「マルスウイスキー モルト デュオ駒ヶ岳×秩父2021」 「マルスモルト ル・パピヨン 小松孝英エディション」発売。 |
2022年 (令和4年) |
「ザ・ラッキーキャット“ルナ”」 「シングルカスク駒ヶ岳2014 No.1841 AGED 7 YEARS」 「MARS The Y.A. #01」 「シングルモルト駒ヶ岳 IPAカスクフィニッシュ Bottled in 2022」 「マルスモルト ル・パピヨン シングルカスク <アイノミドリシジミ>」 「シングルモルト駒ヶ岳2022エディション」発売。 |
2023年 (令和5年) |
「ザ・ラッキーキャット ダブル インディヴィジュアルズ メイ&ルナ」 「マルスモルト ル・パピヨン ダブルカスク <ヒメシロチョウ>」 「マルスモルテージ越百ワインカスクフィニッシュ2023」 「シングルモルト駒ヶ岳2023 エディション」発売。 国内メーカー5社が協力した「ウイスキー100年プロジェクト-Fellow Distillers-」ブレンデッドウイスキーを発表。 |
2024年 (令和6年) |
蒸留所名をマルス信州からマルス駒ヶ岳に変更。 「MARS The Y.A. #03」(マルス信州、マルス津貫原酒使用)発売。 『マルス駒ヶ岳蒸溜所祭り 2024』開催。 |
6-2.歴代のブレンダー
チーフブレンダー 久内 一
1983年(昭和58年)山梨大学工学部発酵生産学科卒業、本坊酒造入社。
入社後、10年間山梨ワイナリーでワインの製造、次の10年は輸入ワインの仕入れ・販売、マルスワインの販売管理・企画の業務に携わる。
2004年(平成16年)にマルス山梨ワイナリー工場長就任。
2009年(平成21年)より甲信製造部長としてマルス信州蒸溜所の蒸留再開、ウイスキー事業に従事。
2013年(平成25年)取締役就任を経てウイスキー部門戦略推進チームリーダー兼チーフブレンダー。
2023年からは常務取締役に就任。