2025年、マルス駒ヶ岳蒸溜所(旧 信州蒸溜所)は開設40周年を迎え、記念セミナーが開催。その様子をレポート。
マルス駒ヶ岳蒸留所は竣工40周年を迎え、ついに定番品となる「シングルモルト駒ヶ岳」が発売されました。セミナーでは本坊和人社長、宮内一取締役、川上ブレンダーが登壇し、マルスウイスキーの歴史と未来について語られました。
1. 本坊和人社長が語る「駒ヶ岳蒸溜所開設の軌跡」
本坊和人社長は、長年の夢であった通年商品「シングルモルト駒ヶ岳」の発売について、喜びを語りました。
社長が29歳だった1982年、当時の地ウイスキーブームの追い風を受け、新たなウイスキー蒸溜所開設に向けて奔走した日々を振り返ります。用地選定のため全国各地を視察した結果、長野県宮田村を選択。理由は、企業誘致が進んでいたことに加え、スコットランドのような冷涼な気候と清らかな水が確保できる点にありました。
しかし、ウイスキーブームの終焉により、1992年にはやむを得ず製造を休止するという苦渋の決断を下します。
蒸溜所再開のきっかけとなったのは、2008年頃からのハイボールブームでした。同時期にはベンチャーウイスキーの創業もあり、社長は市場の復活を確信。
ウイスキーはストックビジネスであるため、製造を続けていた過去と、時間をかけた事業戦略であることを理解した上で、2011年に蒸留の再開を決断。
「再び釜に火を点したら、二度と消すことはできない。」と新たな蒸留所の歩みを始めます。
さらに2014年には蒸留釜を更新するなど、未来を見据えた積極的な投資を続けています。
現在、蒸溜所開設の第一人者として、また駒ヶ岳旧製品に関する知識は社長以外にほとんど残っていないことから、その関わりの深さがうかがえます。
2. 宮内取締役による「マルスウイスキー事業と駒ヶ岳の歩み」
マルスウイスキーの歴史は非常に複雑ですが、宮内取締役のプレゼンテーションにより、その歩みが明確になりました。
1949年 | 鹿児島でウイスキー製造免許を取得。 |
1960年 | 鹿児島から免許を移転し、山梨工場でウイスキー製造を開始。 岩井喜一郎氏が竹鶴ノートをもとに設計した岩井式ポットスチルを使用。 |
1969年 | 再び鹿児島で免許を取得し、小規模ながら蒸留を開始。 |
1985年 |
地ウイスキーブームの需要増に対応するため、山梨工場から免許と設備を移転し、造りに理想の地である信州工場(現:駒ヶ岳蒸溜所)を開設。
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1992年 | ウイスキーブームの低迷により、蒸留を休止。 |
2011年 | ウイスキー市場復活の兆しを受け、蒸留を再開。 |
2016年 | 創業の地である鹿児島県に第二蒸溜所、津貫蒸溜所を開設。 |
2025年 | 通年商品『シングルモルト駒ヶ岳』発売開始。 |
この歴史から、紆余曲折もあり、苦渋の決断を行いながら何度も厳しい時代を耐え、希望を込めた決断を行ってきた蒸留所であることがわかりました。
現在本坊酒造では、
「四季折々の変化に富んだ日本の風土を映した本物のウイスキーを造りたい」の思いの元、
駒ヶ岳、津貫の2蒸留所、駒ヶ岳、津貫、屋久島の3熟成地にて原酒の造り分けと土地ごとの熟成環境を用いて様々な表現を行っています。
そして今回の「シングルモルト駒ヶ岳」にて通年品がでたことで「やっと一人前になれた。」と語ります。
3.川上ブレンダーが明かす「駒ヶ岳の原酒造り」とテイスティング
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駒ヶ岳蒸留所は標高798m。中央アルプスの雪解け水を使用し、スコットランドのように冷涼で霧の多い環境。中央アルプスと南アルプスに挟まれ、夏と冬の寒暖差が激しく、熟成地としても魅力的です。
製造工程の特徴
駒ヶ岳蒸溜所は、初留釜よりも再留釜の方が大きいという特徴的な設備を持っています。これにより、初留液2回分を再留することが可能となり、木桶、ステンレス、木桶+ステンレスという3種類のニューポットを作り分けを行っている。
蒸溜の特徴
初溜釜より再溜釜の方が大きい為、初溜2回分を再溜している。この方法により、前述の木桶、ステンレスを組み合わせた3タイプのニューポットが製造可能。(これは他の蒸溜所のには無い特徴)
品質の安定化
近年、設備の更新により自動化が進み、品質の安定性と再現性が飛躍的に向上しました。
通年品のリリース
十分な原酒が確保できたことで、コンセプトを「クリーンでリッチな味わい」とした通年商品「シングルモルト駒ヶ岳」がリリースされました。
テイスティング
セミナーでは、新商品の構成原酒であるバーボン樽、シェリー樽、ポート樽の3種と、シークレットの1種をテイスティング。
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今回のシングルモルト駒ヶ岳は、使用原酒の平均酒齢は5年程度でありながら、一部には9年や10年のの長期熟成原酒も含まれていることが明かされました。
シークレットは、11月発売予定の「シングルモルト駒ヶ岳40th Anniversary」であり、駒ヶ岳蒸溜所の全年代の原酒がブレンドされた特別な一本であることが明かされました。
このブレンドの妙技は、ブレンダーの技術と、豊富な原酒ストックがあってこそ実現できるものです。
最後に
セミナー後、津貫蒸溜所の責任者である草野氏と、新たな火の神蒸溜所の責任者の方とも交流する機会があり、両蒸溜所への訪問を快諾いただきました。火の神蒸溜所にはビジターセンターも開設されるとのことで、今後の展開にも期待が膨らみます。
訪問時には再度こちらのサイトでレポート記事を書かせていただきたいと思います。
今回のセミナーは、マルスウイスキーが辿ってきた波乱に満ちた歴史と、現在の駒ヶ岳蒸溜所が持つ独自性、そして未来への展望を深く知る貴重な機会となりました。
通年商品のリリースは、ブランドにとって間違いなく新たな一歩であり、挑戦であります。
本坊酒造の今後の展開がますます楽しみになります。
その他本坊酒造の情報はコチラから

最後に:ジャパニーズウイスキーのおすすめ書籍
世界的なトレンドを巻き起こしている「ジャパニーズウイスキー」の事をもっと知りたい、もっと勉強したいという方は、是非こちらの書籍をおすすめいたします。
(1).Whisky Galore(ウイスキーガロア)Vol.51 2025年8月号
【巻頭特集】
「スコッチ蒸留所名鑑 第2弾 ペルノリカール[前編]」
フランスのペルノリカール社が所有するモルト蒸留所について解説し。今号では計6つの蒸留所を掲載。
【特集】
「国家級中国威士忌最新事情 ダイキン編」
土屋守編集長が中国を訪れ、目覚ましい成長を遂げるチャイニーズウイスキー最新事情をリポート。
「韓国ウイスキー」
モルトウイスキー蒸留所が相次いで誕生している韓国を訪問。
【特別対談】
7年ぶりに誕生した新定番 ジョニーウォーカー ブラックルビー
土屋守×金子亜矢人ベンツェ氏
【イベントリポート】
東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2025 受賞結果
(2).ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー
世界的にも有名なウイスキー評論家で、ウイスキー文化研究所代表 土屋守先生の著書「ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー」です。
ウイスキーの基礎知識、日本へのウイスキーの伝来、ジャパニーズウイスキーの誕生、広告戦略とジャパニーズウイスキーの盛隆、そして、現在のクラフト蒸留所の勃興まで。日本のウイスキーの事が非常にわかりやすくまとめられた一冊。
(3).ウイスキーと私(竹鶴政孝)
日本でのウイスキー醸造に人生を捧げた、ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝。ただひたすらにウイスキーを愛した男が自らを語った自伝の改訂復刻版。若き日、単身スコットランドに留学し、幾多の苦難を乗り越えてジャパニーズ・ウイスキーを完成させるまでの日々や、伴侶となるリタのことなどが鮮やかに描かれる。
(4).新世代蒸留所からの挑戦状
2019年発売。世界に空前のウイスキーブームが到来しているいま、クラフト蒸留所の経営者たちは何を考え、どんな想いでウイスキー造りに挑んだのか。日本でクラフト蒸留所が誕生するきっかけを作った、イチローズ・モルトで有名なベンチャーウイスキーの肥土伊知郎氏をはじめとする、13人のクラフト蒸留所の経営者たちが世界に挑む姿を綴った1冊。
(5).ウイスキーライジング
2016年にアメリカで出版された『Whisky Risng』の日本語版であり、内容も大幅にアップデート。ジャパニーズ・ウイスキーの歴史が詳細に記述されているだけでなく、近年、創設がつづくクラフト蒸溜所を含む、日本の全蒸溜所に関するデータも掲載。そのほかにも、今まで発売された伝説的なボトルの解説や、ジャパニーズ・ウイスキーが飲めるバーなども掲載されています。
(6).ウイスキーと風の味
1969年にニッカウヰスキーに入社した、三代目マスターブレンダーの佐藤茂夫氏の著書。
『ピュアモルト』『ブラックニッカクリア』『フロム・ザ・バレル』の生みの親でもあり、なかでも『シングルモルト余市1987』はウイスキーの国際的コンペティションWWA(ワールド・ウイスキー・アワード)にて「ワールド・ベスト・シングルモルト」を受賞。
竹鶴政孝、竹鶴威の意志を引き継いだブレンダー界のレジェンドが語る今昔。