2021年2月16日、遂にジャパニーズウイスキーの定義が日本洋酒酒造組合の自主基準として制定されました。
今回のジャパニーズウイスキー自主基準の制定には、これまでの日本のウイスキーの製造・販売における様々な問題点を背景に、国内の主要ウイスキーメーカー数社が参加するワーキンググループで議論を重ねてきたもので、ウイスキーメーカー、ウイスキー愛好家、ウイスキー評論家の方々の悲願でもありました。
本記事では、これまでのジャパニーズウイスキーの実態と、今回の自主基準の内容、そして自主基準制定による影響について説明したいと思います。
1.日本のウイスキーの実態と問題点
1-1.日本の酒税法上のウイスキー
現在の日本の酒税法上のウイスキーの規定では、「製造地域」、「貯蔵環境や期間」の定義が無く、また「混合物」についても大雑把な定義のみとなっております。
下記の内容が、酒税法の原文でウイスキーの定義に関する記述部分となります。
イ 発芽させた穀類及び水を原料として糖化させ、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五度未満のものに限る。)
ロ 発芽させた穀類及び水によって穀類を糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が九十五度未満のものに限る。)
ハ イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の種類のアルコール分の総量の百分の十以上のものに限る。)
(出展元:酒税法 第一章総則 第三条(その他の用語の定義))
難しく書かれていいますが、分かりやすく解説すると、
- 酒税法上の「ウイスキー」とは、大麦麦芽を原料とした「モルトウイスキー」又は、大麦麦芽と穀物を原料として「グレーンウイスキー」を使用したものである。そして、総量の90%以下ならアルコール、スピリッツ、香味料、色素、水を加えても良い。
以上が、酒税法上の「ウイスキー」の定義です。この定義に当てはまるものであれば「ウイスキー」として製造・販売する事ができます。
?????
おかしいですよね。90%までは、モルトウイスキー、グレーンウイスキー以外の物を使用してもウイスキーと言えるのです。
極端な例で言うと、モルトウイスキーとグレーンウイスキーを合わせたものが10%だけで、残りの90%がアルコール、スピリッツ、香味料、色素、水だったとしてもそれはウイスキーとなります。「製造地域」、「貯蔵環境や期間」の定義もありませんので、悪く言うとやりたい放題な状態なのです。
1-2.使用しているウイスキー原酒による製品種別
上記の通り、酒税法では「製造地域」、「貯蔵環境や期間」の定義が無い為、国内の酒造メーカーの中には、海外から輸入した「バルクウイスキー」を日本国内でそのまま瓶詰したり、日本産のウイスキーとブレンドして瓶詰し、漢字を用いた商品ラベルを貼付して販売しています。(酒税法的には問題はありません)
もちろん、100%日本産ウイスキー原酒を使用して製造し、「ジャパニーズウイスキー」と表記している製品もあります。
使用しているウイスキー原酒の「製造地域」からA.100%日本産ウイスキー、B.海外産ウイスキー+日本産ウイスキー【明示してる】、C.海外産ウイスキー(+日本産ウイスキー)【明示してない】の3種類に分類してみました。
A.100%日本産ウイスキー
日本国内の蒸留所でウイスキー原酒を製造し、貯蔵を行い、最終的にボトリングする際に使用しているウイスキー原酒の全てが日本産ウイスキーで造られているもの。メーカーの中には、ラベルに「Japanese Whisky」や「ジャパニーズウイスキー」と表記しているものもあります。
B.海外産ウイスキー+日本産ウイスキー【明示してる】
海外から輸入したウイスキー原酒を使用して作られたウイスキーを販売しても酒税法的にはなんら問題はありませんし、そのことをラベルに表記する義務も特段ありません。
しかし、いくつかのメーカーでは、製品に使用しているウイスキー原酒の「製造地域」などを分かりやすく商品に表記するなど明示しています。
下記の製品は特に、日本のウイスキー原酒と海外のウイスキー原酒をブレンドしている事を商品コンセプトとして販売しており、ベンチャーウイスキーの「イチローズモルト&グレーンワールドブレンデッド」、サントリーの「碧Ao」、長濱蒸溜所の「アマハガンワールドモルト」、ニッカの「ニッカセッション」などは、それぞれ日本の原酒と海外の原酒をブレンドしている事が明記されていますので、一般消費者の方もそれを理解した上で購入する事が出来ます。
C.海外産ウイスキー(+日本産ウイスキー)【明示してない】
海外から輸入したウイスキー原酒を使用して製造しているが、そのことを明示せずに販売されているウイスキーが、実は今の日本のウイスキー市場では最も多いと思われます。
各国内メーカーが販売している廉価なウイスキーの殆どは、使用されている原酒の大部分(もしくは全て)が海外の輸入ウイスキー原酒で製造されているようです。
もちろん、酒税法に抵触するわけではありませんし、メーカーとして悪意があるわけでもありません。消費者の需要に寄り添った安価なウイスキーを提供する為の手段として、海外の輸入ウイスキー原酒を使用されていると認識しています。(「ジャパニーズウイスキー」という表記もしていません。)
ただし、消費者が中身まで理解した上で購入されているかは定かではありません。日本産ウイスキーだと思い込んで購入している方も多く、混乱を招く可能性は高いかもしれません。
2.海外のウイスキーの定義
一方、スコットランドやアイルランド、アメリカ、カナダでは、法律でウイスキーの「生産場所」や「貯蔵期間」などが細かく定義されている為、それぞれの商品の信頼性が保たれています。
2-1.スコッチウイスキー
スコットランド国内の蒸留所で糖化、発酵、蒸留を行ない、700ℓ以下のオーク樽に詰め、スコットランド国内の保税倉庫で3年以上熟成させたものを「スコッチウイスキー」と称する。
2-2.アイリッシュウイスキー
アイルランド国内の蒸留所で糖化、発酵、蒸留を行ない、700ℓ以下のオーク樽に詰め、アイルランド国内の保税倉庫で3年以上熟成させたものを「アイリッシュウイスキー」と称する。
2-3.アメリカンウイスキー
アメリカ国内の蒸留所で穀物を原料に蒸留した後、新しいオーク樽で熟成させたもの(ただしコーン・ウイスキーについては熟成は不要)、およびそれにスピリッツをブレンドしたもので、アルコール度数40%以上で瓶詰めしたものを「アメリカンウイスキー」と称する。
尚、原料の種類や割合、製法で更に以下のように細分化されています。
名称 | 原料 | 製法 |
バーボンウイスキー | トウモロコシが最低51%、79%まで | 内側を焦がした新しい樽で熟成 |
コーンウイスキー | トウモロコシが80%以上を占める | 古い樽、または内側を焦がしていない樽で熟成 |
モルトウイスキー | 大麦が51%以上を占める | 内側を焦がした新しい樽で熟成 |
ライウイスキー | ライ麦が51%以上を占める |